王子様とブーランジェール
「利害が一致?…何だそれは」
「それはじきにわかる。我々も待っていたのだ。この時を」
「…ん?…んん?」
急に話が見えなくなった。
どっかの誰かを叩き潰すことを、待っていた?
まるで、このチャンスが訪れるのを待っていたかのような言い方だな。
「それに…神田は『負けたくない』と話しておったぞ?…集団でボコられるという圧倒的不利な状況にいるにも関わらず、奴等に屈するつもりはないと!…その心意気、気に入った…」
狭山は一人で盛り上がってしまったのか、身振り手振りを大きくさせ、辺りをうろうろと歩きながら、語るように話を続ける。
まるで、演劇のワンシーンだ。
役者さんですか?
「…絶好のタイミングで、その輩を徹底的に叩き潰す。…そのために、私は作戦を練り、役者を揃えた。神田には『必ず叩き潰してやるから、それまでは耐えろ』と伝えてな…?」
「…耐えろ?…おまえ、まさか!桃李にボコられても耐えて待てと言ったのか!何を…!」
「バカめ!神田は強い意志を持って戦っておる!…竜堂、神田はおまえが思っているより、心が強いぞ…?」
はぁっ?!
桃李が強い?!
…あり得ない。
挙動不審ダメドジの上に、ヘタレの桃李だぞ?
強いワケが…。
「…で、現在は絶好のタイミングを狙って、待機している最中だ。監視、見張りはそれぞれ付けておる。心配するな」
監視に見張り?
またミッションか?小ミッション?
またしても、本気具合が相当本格的だ。
「ゴキブリがゴキブリホイホイに近付いたところで、私は魔神ブーを召喚し、そのゴキブリを一時的に引っ捕らえる。その間に、このゴキブリホイホイ内に竜堂、おまえを投入し、中にいるゴキブリは殲滅だ。そして、そこで私はそこらへんでプラプラしているヤローを召喚して、魔神ブーが捕らえたゴキブリを徹底的に叩き潰す。…いいな?」
…わからん。
狭山、おまえはいったい何を言っている。
いいな?と言われても、わからん。解読不能だ。
魔神ブー?
狭山は架空の世界の人物を、召喚するのか?
そこらへんでプラプラしているヤロー?役に立つのか?
召喚士・狭山?
魔神ブーがゴキブリを引っ捕らえる?
ゴキブリを叩き潰す?
おまえは某漫画のように、巨大ゴキブリと戦っているのか?
何を言ってるんだ。
こんな状況で。
桃李のピンチだと言うのに…。
(…あっ!)
しかし、俺は。
次々と明かされるまさかの展開と、狭山の演劇もどきを見ていて、大事なことに気付くのが遅れていた。