王子様とブーランジェール
家庭科室を出ると、狭山と菊地さんは三階の廊下を気にしながら目の前にある階段を速やかに上って四階へと向かった。
俺達もその後に続く。
四階に上がっても速やかに、廊下を早足で移動していた。
「皆さん、こっちです」
菊地さんが俺達を招いた場所とは、西校舎にある四階A教室。
空き教室で、委員会や展開授業に使用されている教室だ。
奥にはB教室もC教室もあり、普段からどれも使用しない時はオープンスペースになっている。
「さあ隠れて隠れて」
俺達を教室に入れるなり、静かにドアを閉めていた。
そして、狭山と菊地さんはこそこそと話している。
「C教室で待機してます。準備は済んでるそうです」
「わかった。状況見て連絡しろ」
「はい」
何となく、小ミッションだ。
「…竜堂」
狭山が悪者の表情そのまま、俺のところにやってくる。
そして、驚愕の事実を突き付けた。
「神田は、隣のB教室にいる」
「…え?」
その教室のある方向に顔を向けてしまう。
そう言えば…話し声、時々荒げた声や物音がしていたのが気になっていた。
「放課後に呼び出され、連中と対峙しておる」
「はっ…おまえ!」
じゃあ、今、現在進行形で…やられている最中なのか?!
だが、動き出そうとしたのを予め制止するかのように、狭山は俺の行く手を阻んで立ちはだかった。
「大丈夫だ。待て…?」
「…んだと、てめえ!」
桃李がやられてんのに…待てというのか!
「…狭山さん!来ます!」
ドアを少し開けて、廊下の様子を伺っていた菊地さんが、手招きをする。
「クックッ…ついにかかったか?」
狭山も赴き、ドアから顔を出す。
何が起こっているのか。
確認するために、俺も後を着いていく。
「竜堂…見てみろ?来るぞ?…ゴキブリが」
え?来るの?こんなに早く?
こういうのって、じっくり張り込んで待つもんじゃ…。
俺も狭山や菊地さん同様、少し開いたドアの隙間から廊下を覗く。
同様に理人と藤ノ宮も、隙間から覗いていた。
覗いた先の廊下は、ガラーンとしており誰もいない。
人っ子一人通りすがってない。
…と、思いきや。
西校舎の突き当たりにある階段から、パタパタと足音がする。
その突き当たりから、姿を現した。
…って、この人!