王子様とブーランジェール
「サッカー部の蜂谷センパイとも遊んでたんでしょ?!一緒に歩いてるの見たって人がいるんだよ!」
「地下鉄のクレープ屋の近くでキスしてたって!色々と手当たり次第じゃない!何なの?!」
…え?え?え?
蜂谷さんと、キス?!
な、何だと…!
思わぬところから、思わぬ情報が!
桃李の方をチラッと見る。
桃李も「…え?え?」と挙動不審になった後に、「ち、ちがう!ちがう!」と首をぶんぶんと横に振っている。
しかし、そこで菊地さんがムキになって代弁をしていた。
「そ、それは!桃李のほっぺに生クリームが付いたのを、蜂谷さんが変態のように舐めただけです!」
…変態!
い、いや。
そんなことがあっただなんて…聞いてないぞ!
なぜ、菊地さんが知っていて、俺が知らないんだ!
なぜ、俺に言わない?!
しかし、ムキになって反論すると、隙を突かれたかのように次々とカウンターが来る。
「何言ってんの?!そんな生クリームついた頬を舐めたとか、そこらの恋愛小説みたいなことあるワケないじゃん!」
「頬どころか口にだってしてんでしょ!信じられない!」
「ち、ち、ちが、ちが…ちがうー!」
「竜堂くんの前だから違うとか言って、嘘つくんじゃないよ!」
ここぞとばかりに一斉に攻めるか。
まったく女子の口の強さ、口撃といったらないな。
いや、俺も人のこと言えないか。
しかし、そんな状況を見守る冷静さの裏で、実は俺の中ではふつふつと怒りがこみ上げてきている。
生クリームついた頬を舐めた…?
それ、ほぼキスじゃね…?
(殺す…)
もう、直属のセンパイだとか、上司とか。
ないぞ…?
俺の大事な頬っぺた舐めたとか…許されないわ!腹立たしい!
後で殺してやる!
この蜂谷あぁぁっ!
二方向の怒りが混じって、イライラはMAXに近い。
だが、更なる展開はまだまだこれから。
その追い討ちは、とんでもない。
女子たちの一方的な攻撃が続く中で、その中の一人が、普通にとんでもない事を言ったのを。
俺は、聞き逃さなかった。
「美央と竜堂くんの仲もぶち壊して!あんたが間に入って別れさせたんでしょ!」
「最低だよね!美央さん、どんだけ泣いていたかわかる?!このストーカー!」
今…何て言った?!