王子様とブーランジェール
だが、その理由は、本人の口から明かされるワケはなく。
本人以外の誰かに、いとも簡単に暴露されてしまう。
「おいおい嵐。何ぶっ壊れてんだ?笑いすぎだバカめ!」
嵐さんの笑いっぷりをしばらく眺めていた狭山。
面白かったのか、顔にニヤケが残っている。
嵐さんは、爆笑の勢いそのまま「はぁー?」と狭山に反論している。
「だって、笑う以外何あんのよー!何の関係もない蜂谷くんが急に登場とか、こんな茶番劇あるー?普段そんなに喋ったことないのにー?!笑えるー!」
そう言って、またケタケタと笑い始めていた。
狭山の言うとおり、ホントにぶっ壊れてんじゃないかと思うくらい。
しかし、その笑いは再び止まる。
「…美央」
その、普段そんなに喋ったことない彼が、彼女を下の名前で呼ぶ。
そんな蜂谷さんの表情からは、さっきのいたずらな笑顔は消えていて、いつになく真顔だ。
名前を呼ばれた彼女は、ピタッと笑うのを止めてしまった。
「………」
そのまま、フリーズしてしまっている。
「…っつーか、この間喋ったしょ。桃りんとクレープ屋にいた時もそっちから話し掛けてきたじゃん」
「………」
「それに、何の関係もないことはないでしょ。俺達、幼なじみだし」
幼なじみ…!
『幼なじみなんて…ただの偶像崇拝よ!』
嵐さんと蜂谷さんが、幼なじみ…!
すると、嵐さんは「あははっ」と笑う。
「…だから何?幼なじみなんて特別なモノじゃないじゃない?幼稚園からの付き合いの人なんて、たくさんいるわよ!」
「じゃあ、何でそんなに俺に構うの?」
「はぁー?」
「一学期の話だけど、美央、うちの二年の千紗マネに軽くヤキいれたよね?俺とどんな関係なのか、俺に近付くなとか詰め寄ったんだろ?」
「は、はぁ?!し、知らない!」
「話は上がってるよ?千紗マネ本人からも聞いてるし、それを見ていた生徒からも聞いてる。千紗マネに彼氏がいるってわかった途端、素知らぬフリして逃げたくせに」
「な、何を…」
「二人でイオンでお茶してるとこでも見てた?…あれ、部活の話をしてただけだって。後から彼氏の部員も来たし」
そんなことがあったのか。
確かに。千紗マネは、同じサッカー部の2年の先輩、源さんと付き合っている。
勘違いだとわかった途端、逃げるとは…千紗マネからしても傍迷惑な話だ。