王子様とブーランジェール




「藤ノ宮律子のイジメのことも、俺が藤ノ宮にフラれたから…だろ?」



…え?

藤ノ宮が、蜂谷さんをフッた?!

これは、語られることがなければわからなかった真実では。

「まだよく知らない人に付き合ってとか言われても…」と、藤ノ宮は離れたところで呟いている。



そう問い掛ける蜂谷さんだったが、嵐さんは視線を下に落とし、無言である。

黙りを決め込んでいるのか。



「桃りんとのことだって、二人でクレープ屋にいたところを偶然出くわしたからだろ?…まあ、あれは俺もやりすぎたと思うけど…」

「……」

しかし、蜂谷さんが、どれだけ問い掛けても。

蜂谷さんの返答を待っている素振りがあるにも関わらず、嵐さんは黙りしたままだ。

おまけに、蜂谷さんの顔を見ようともしない。

さすがの蜂谷さんも、ため息をついていた。




「…あのさぁ?…美央、いったい何がしたいワケ?!」




急に声を張り上げる蜂谷さんに、嵐さんはビックリしたのか体を震わす。

普段、そんなに怒らない人の大声は迫力がある。

俺も、ビクッとした。




「俺が気に入った女子たちにはヤキ入れて、俺の周りの先輩や友達、後輩と関係持って…何のアピール?」

「………」

「美央は昔からそうだった。はっきり言えばいいのに、素直になれないもんだから、わざと大袈裟なことして人の気を引こうとする」

「……」

「…俺も、今まで黙っていたけど、もうさすがに疲れるわ」

「……」

「『気付け』『察しろ』は、もうウザい」

「……」

「…なのに、美央は俺に何も一言も言ってきてないよ?どうしたいのか、俺にどうしてほしいのか…何も言ってこない」

「…あ…」

「だから、わかんない」




そう言って、蜂谷さんは俺達の方を向く。

そして、つかつかとこっちにやってきた。

俺のところ、というよりも、俺の傍にいる桃李のところへ。




「…桃りん」



桃李は呼び掛けられた途端、ビクッとして気持ち俺の後ろに隠れる。

「は、はは蜂谷センパイ…」と、呟きながら。

その動きを察したのか、嵐さんはバッと顔を上げて振り向く。

「ちょっと…!」と、かすかに聞こえた。



そして、蜂谷さんは、桃李の真ん前に現れて、急にバッと頭を下げる。



「俺のせいで…ごめん!」



下げた頭は上がらず。

ずっと下がったままでいた。



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