王子様とブーランジェール
しばらくの沈黙の後。
「…ふう」
蜂谷さんが顔を上げて、一息つく。
その表情は、先ほどの真顔ではなく、ケロッとしていた。
そして、狭山の方をチラッと見る。
「…狭山。こんなんでいい?」
蜂谷さんの問いに対し、狭山はガッツポーズを見せる。
「期待以上だぞ蜂谷!いい感じの叩き潰しになったぞバカめ!」
「叩き潰しって…おいおい」
「これであやつは再起不能だ。絶好のタイミングで徹底的な致命傷を与えたぞ!」
「致命傷ってか…まあ、俺も前から言わなきゃと思ってたし。しばらく静かにしてると有り難いんだけど…」
蜂谷さんはまたため息をついた。
「…後のフォロー、しなきゃな…」と、ボソッと呟く。
絶好のタイミングで徹底的に叩き潰す。
…こういうことか。
前からチャンス、伺ってたのかよ。
嵐さんを潰すチャンス。
確かに、ああやって蜂谷さんに代わりに謝られたら、嵐さんの高いプライドはズタズタだ。
蜂谷さんを使って、嵐さんに惨めな思いをさせて精神的にやっつけるとか。
狭山はやはりキングオブ悪者だ。
…これにて、桃李に対するイジメ事件は、解決。
…ではない。
(………)
俺の傍に隠れているように立っている桃李をチラッと見る。
複雑そうな表情で俯いていた。
俺が原因で、女子たちに嫌がらせをされていたのだが…結局、嵐さんの蜂谷さんに対する個人的な感情、桃李に対する嫉妬が原因だった。
…とは、言い切れない。
「…あーっ。もう、何なの?」
女子の一人が不服そうな表情で、ため息をついている。
「結局、美央は竜堂くんじゃなく、蜂谷くんを好きで、この女を妬んで始まったってワケ?」
すると、女子たちは次々と不満を口にする。
「竜堂くんが困ってるって言うから美央さんに協力したのに。結局私達騙されたワケ?何それ」
「だって、竜堂くんが関わってなきゃ、こんなことしないもん」
「ミスターはみんなのものだもんねー?」
俺が関わってなきゃ、こんなことしない…?
ミスターは、みんなのもの…?
…やはり、この事件は、俺が関わっていたから起こったワケで。
原因は…やはり、俺なのか。
だって、俺ではなく、蜂谷さんだったら、この女子たちは動いてないってことだもんな?
ミスターである、俺が…。
やはり、桃李が傷付けられたのも。
俺のせい…なのか。