王子様とブーランジェール
浮かない表情のまま、ケガした指を胸に抱えるように俯いている桃李。
その姿を目にすると、改めて思い知らされる。
俺のせいで…桃李が傷付けられた。
俺がいなければ、こんなことにはならなかった。
「…ちょっと、あなた達?随分勝手なことを仰ってるようですが?」
そう言い放って、女子たちの前に出てきたのは、小笠原だ。
開いていた扇子を手の平にしまうように音を立てて畳む。
「は?何?あんた」
女子たちは表れた小笠原に面倒くさそうに注目する。
小笠原の咳払いがひとつ、響いた。
「あなた達、何故あたかも被害者のように振る舞っているのですか?あなた達は、そこの神田に暴力を奮った立派な加害者ですよ?」
すると、女子の一人が不服そうな表情を見せる。
「え?何?…だから、私達は美央さんに騙されて…」
「騙されただか何だか知りませんが。だからといって暴力を奮ったことを肯定してよろしいのですか?」
「は?そんなつもりないけど?」
「現に、騙された騙されたと連呼するのみで、謝罪のひとつもしていないではないですか?ましてや、夏輝様の大切な幼なじみを傷付けるなんて」
「そんなんじゃ…!」
「被害者ぶってるあたり、あなた達もあの嵐と何ら変わりありませんよ?むしろ、正当化しているあたり、嵐よりタチが悪いと思いますが」
「…ちょっと!何なのよあんた!」
「タチが悪いですって?!」
「…それにミスターだからといって、夏輝様は私達やあなた方、みんなのものではございません。夏輝様は、夏輝様が心に決めた御方のモノです。悪しからず?」
スッパリと言い切る小笠原に神経が逆撫でされたのか、「はぁ?!」と女子たちのトゲのある返答が次々と飛び出る。
「私達は、竜堂くんが困ってるって聞いたからやったワケであって、竜堂くんが困るようなことはしない!」
「美央にハメられたようなもんだよ!私達!…何でこんなことに!」
「…それに?その女だって。幼なじみな上にちょっと可愛いからって、調子に乗っていたところは否めないんじゃない?」
「そうよ!竜堂くんどころか、和田くんとも仲良いらしいじゃん!イケメンに囲まれて!」
「あなた達…自分が何を言ってるか、わかってますか…?」
「竜堂くんが怒ってるなら、謝るけど?」
こいつら…いったい、何を言ってるんだ。