王子様とブーランジェール
「な、何っ?何っ?」
「…今まで、ごめん」
「…え?」
「今まで、俺、桃李に酷いことばっかり言ってたよな…ちゃんとしろだとか、バカだとか」
「え…だ、だって、それは本当のことだもん!私、ちゃんとしてないし、バカだし…夏輝が正しいんだもんっ!謝るなんて…」
「…その上、俺のことに巻き込まれて、痛い思いさせて、ホント悪いことしたと思ってる…ごめん。本当にごめん」
今まで、桃李に謝ったことなんてなかった。
これが、初かもしれない。
初の謝罪を受けた桃李だったが、そこはあまり気にしていないのか、スルーされた。
「何で夏輝が謝るの…?私、大丈夫だよ?」
「…大丈夫じゃねえだろ!…あんなに殴られて蹴られて!」
思わず、声を張ってしまう。
謝罪の直後なのに、しまった…と、思わせられる。
桃李…どんな顔してるんだろうか。
…もう、傷付けたくない。
本当に、大好きで、大切で。
守りたかった。
ずっと、一緒にいたかった。
…だけど、今の俺は、おまえを傷付けるだけでしかない存在だということに気付いてしまった。
「桃李…」
「…ん?何?」
傷付けたくない。
だからこそ、の決断だった。
「おまえ…もう、俺に関わるな」
「…え?」
桃李の腕を掴むその力が、ふと抜ける。
「…俺の近くにいたら、きっとまた今日みたいなことが起きる。もう、俺に近付くな」
「…え?え?」
「教室でドジ踏んでももう怒らない。必要以上に話し掛けない」
「な、な、な…」
「…もう、パンダフルにも行かない」
そう言い切って、桃李の腕を静かに振り払った。
力が抜けていたため、容易くほどける。
桃李の顔を見ないように、後ろは振り返らず。
止めていた足は、また動き出した。
桃李をその場に残し、さっきより早足でその場を去る。
いろいろな思いを振り切るかのように。
俺が、ミスターである以上、こういうことはまた起きる。
その度に桃李を傷付けられては、敵わない。
大切なモノを傷付けることしか出来ないのなら、もう求める資格なんてない。
大切に出来ないのなら、傍にいたくても、願ってはいけない。
頼りにもならないし、最低なヤツだ。俺は。
守るために、もう関わらない。
5年に渡る純情ラブストーリーは、もう終わり。
…もう、終わりだ。