王子様とブーランジェール
どうした?疲れているんだろうか。
あまり見ることのないアンニュイな表情に、少し戸惑う。
まるで、物思いに耽っているような…。
…その場では、結局。その表情の理由はわからず、ただ見守るカタチとなる。
勉強三昧の夜は更けていき、丑三つ時を向かえる頃には、寝落ちしてしまっていた。
ふと、目が覚めた時には午前3時半。
俺、こたつに入ったまま寝てた…。
部屋の電気が点いたままだと思いながら、ボーッと考える。
周りを見渡すと。
秋緒と圭織は、ちゃっかりと秋緒のベッドに二人で寝てる。
桃李は、俺に背を向けて、そこらへんに寝転がっていた。すやすやと寝てる。
傍にあったケータイの画面を何となく見た。
…あ。あゆりからLINEが来てる。
《久しぶり!元気してる?私はまだ勉強してる》だって。
一時間前の着信。頑張ってんな、あいつ。
あゆりとは、高校入学前から知り合い。
通っていた塾が一緒な上、席が隣でよく話をした。
俺は推薦が受かったので、一足お先に塾を辞めてしまい、ここ最近は顔を見ていなかった。
久しぶりだな。
何となく、電話してみる。
すると、こんな時間にも関わらず、あゆりは電話に出た。
『…夏輝?!起きてたの?!』
『おう。寝落ちしてて今起きた。久しぶりだな。あゆりこそ起きてたのか?』
『起きてたよー!もうー!』
久々の人と、思わず会話が弾んでしまい、15分くらい喋ってしまった。
気晴らしに、来週ボーリングに行く約束をしたぐらいにしといて。
『…じゃあ、来週土曜日な?また電話する…じゃあな。おやすみ』
電話を切った後、一息つく。
…そろそろ自分の部屋に戻るか。
朝までいたら、秋緒に痴漢扱いされる。
それほど腹立たしいものはない。
そう思って立ち上がった時、ふと横たわって寝落ちしている桃李の姿が目に入った。
こたつは俺が占領してたから、ヤツは掛けものもかけずにそこら辺の床に雑魚寝している。
悪いことしたかな。
こたつを隅によけて、予め用意していた布団を敷いてやる。
風邪をひくから、ちゃんと布団に寝かせてやらないと。
用意した布団に寝かせるため、抱き上げて移動させてやる。
…うわ。お姫様抱っこしちゃった。
温かくて、柔らか。
抱えているその腕から伝わってくる、桃李の体温や、感触を自覚すると。
急にドキドキ胸が高鳴ってしまった。
うわっ。俺、いやらしい。