王子様とブーランジェール
これは、俺のことを心配してくれている…という発言ではない。
皮肉たっぷり。不服そうな表情だ。
「って、話の展開からわからないか?俺の周りにいたから桃李が…」
「全然わかんねえし」
「………」
…こりゃダメだ。
何を言っても批判の嵐だぞ?きっと。
「…桃李、何か言ってた?」
自分から突き放したとはいえ、気になるので聞いてみる。
だが、理人は眉間にシワを寄せて「はぁ?」と更に不服そうだ。
「おまえなんかに教えるかチキン」
やっぱり…そうだよな。
図々しい極まりないことではある。
ため息をついていると、ふと、入り口の向こうの廊下の様子が目に入る。
知らない女子が数人、教室を覗いていた。
と、同時に目が合ってしまい、手を振られる。
ノーリアクションで呆然としていると、手を振られながら、そのうちいなくなっていった。
…ミスターになってから、よくある光景で対して気にはしていなかったんだけど。
あの一件から気になり出してしまった。
今度は、この女子たちが、桃李に危害を加えるかもしれない。
いや、桃李だけとは限らず。
ただのクラスの女子も、ただ俺と話をしてるっていうだけで、危害の対象になってしまうかもしれない。
そう思うと、ファンの女子たちの存在が、嫌悪感でしかない。
(………)
ケータイをポケットに入れて、席を立つ。
「…どこ行くんだ?」
「………」
理人の問いかけにも無言でいたが、席を立った時に、突き放したヤツの姿が視界に入る。
教室の奥の方の席で、いつものように松嶋と談笑をしていた。
「や、やややややめっ!…ま、松嶋ぁー!」
「うわっ。神田さん、エロいですなー?男の裸体に反応しちゃいましたかー?」
「ち、ちがちがっ…」
何の話だ。また得意のセクハラか?
松嶋…!
…と、もう怒る必要もないんだっけ。
桃李がドジ踏もうが、セクハラされようが、怒る権利は俺にはない。
授業開始の予鈴は鳴るが。
そんな二人を横目に、教室を出る。
「…は?サボり?」
「………」
「…マジ?優等生のくせに」
そうだ。サボりだ。
そして、優等生のつもりは最初っからない。
今の俺には、知らない女子たちにお手振りされるのも、桃李を視界に入れるのもキツイ。
ただ、一人になりたかった。