王子様とブーランジェール




思えば…ミスターになってからというもの、ずっとメンタルがやられているような気がする。

男子生徒の襲撃事件が一段落ついたと思ったら、今度はこの件。

一息つく間もなく、結構しんどい。



ミスターって、いったい何なんだ。

こんな話、聞いてない。



…いや、聞いてはいたけど、こんな事態にまさか自分が陥るとは思わなかっただけで。

読みが甘かった。

甘く見ていたよ。




予鈴が鳴り終わった後の、人のいないガラーンとした廊下を一人歩く。

西校舎の渡り廊下を通過し、更に突き当たりまで歩くと、左手には鉄製の扉がある。



ポケットに手を突っ込んで、鍵を取り出した。

プロ野球チーム、ハイターズのユニフォームのキーホルダーが付いた鍵。

…これは、ミスター就任の際に生徒会から受け取った鍵だ。




西校舎の屋上への道。

『お城』の鍵。



その鍵を鉄扉の鍵穴に差し込んで回す。

ガチャンと音がして、ドアノブを回すと扉が開いた。

中に入ると速やかにドアを閉めて、内鍵を掛ける。




…実は、ここに来るのは初めてじゃない。



金曜日、桃李の手を振り払って、行く宛てもなく歩いていたら。

ふと、この西校舎の屋上の扉の前に来てしまった。

そういえば…と、思い、偶然持っていた鍵でその扉を開ける。



開いた扉の向こうは。

薄暗い中、唯一ある小窓から日が差し込んでいて、屋上へと続く階段を照らしていた。

階段を昇りきると、扉が目の前にひとつ、あと左手にもうひとつ。

恐らく、目の前の扉が屋上。左手のドアが、生徒会長の言っていた小部屋…?



まず、目の前の扉を開けてみる。

…普通の屋上だ。

本校舎より狭いが、普通の屋上。

フェンスも張られている、何のコメントもない普通の屋上。




その扉を閉めて、今度は小部屋があると思われるそのドアを開ける。

しかし、そこは意外な驚きがあった。



マジか。

学校にこんなところがあるなんて。



そこは、普通の生活空間…と、いえる状態のものだった。



俺の部屋より少し広めの部屋。

そこには、個性的な赤色の二人掛けのソファーと、大きめの白いローテーブルが置いてあった。

…え?普通のリビング?

小さいテレビも設置されてある。

え?テレビ、見れるの?



そして、奥には…流し台がある。

ガス台は無いが、その代わりなのか、カセットコンロが置いてあった。

その傍にはやかんも置いてある。

お湯沸かせる…。



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