王子様とブーランジェール
そして、更に驚くべき設備は…冷蔵庫だ。
一人暮らしサイズの小さい冷蔵庫が流し台の横にちんまりと置かれていた。
使えるのか?…と、恐る恐るコンセントを差し込んでみた。
中は…ちょっと掃除をした方が良いか。
よく見ると、食器も少しあったり。
隅には掃除器やバケツ、乾いた雑巾も置いてある。
何これ。
一人暮らしの部屋じゃねえか。
ピカピカってワケでもないけど、小汚ない感じでもない。
ほんのちょっと前まで、誰かが使っていたような感じだ。
…先代のミスターか?
しかいないよな。
しかし、ということは、最後に使ってから、約半年経っているのか。
これは…キレイだろうが汚かろうが、一度掃除をしないと使えないな。
そういうことで。
土日、学校が休みではあるが、部活が終わった後にこっそりやってきて、この小部屋をお掃除。
拭き掃除、掃き掃除、床掃除。
掃除に火が着いてしまった。
冷蔵庫の中も掃除。
電気つけたら、良い感じに冷えてる。
これは使えるぞ…!
ちょっと嬉しい。
弁当や飲み物冷やしておける。
テレビもちゃんと民放チャンネルも見れるし。
カセットコンロも使えそうなので、お湯沸かしてカップラーメン食べれるぞ。
すごい。これが『お城』。
入り口に鍵を掛ければ、誰も入ってこられない。
本当に、一人でゆっくり過ごせるのか。
今の状態から。
これを使わない手はない。
教室にいると、知らない女子たちが覗いてきて手を振ったり呼び掛けてくるし。
熊牧場の熊のように見せ物になっていると思うと、イラッとさせられるし。
思えば、これって教室のみんなに迷惑をかけているような…。
それに、気になる桃李の姿も目に入ってしまう。
もう関わらないって言ったのに、気にしてしまうから。
そうすると、いろんな事がごちゃごちゃと頭の中を支配していく。
これはもう、教室にいない方が良い。
授業には出なくちゃいけないけど。
あまり、教室にいないようにする。
3時限目は数学だが自習というのを聞いて、お城に身を運ぶ。
自習となれば、お喋りの時間だからな。
そんな、お喋りをする余裕など持ち合わせていない。
人生初のサボり。
…いや、小学生の時に長い長いサボりをしていたか。
あの時以来だ。
部屋に入り、ソファーにドカッと座り込む。
座ったまま、天を仰いで息を大きく吐いた。