王子様とブーランジェール



4時限目は、生物だし。

このまま昼休み終わりまでいるか。

実は、朝イチでここに来て、冷蔵庫に弁当とアイスコーヒーを入れておいた。

冷蔵庫、重宝するな。



昼は一人でここにいようと、昨日から考えていた。

昼休みは何かと来客が多い。

そんなのいちいち構っている余裕などない。

昼休みはなるべく人目のつかないここで過ごすことにした。



プチ引きこもり。



ソファーに腰掛け、背に身を預けながら、ボーッとする。

土曜日、部活終了時に蜂谷さんに話しかけられ、二人で話し込んだことを思い出した。

話したこととは、もちろん。

金曜日の件。そして、あの彼女のこと。



はぁ…何なんだよ。







『…竜堂、すまん!うちのがいろいろと、すまん!』

『…は?』



土曜日。練習終了直後、蜂谷さんにそう弾丸で話しかけられ、戸惑ってしまった。

周りに部員、いっぱいいるんだぞ?なのに、何故急に!

それに、うちのが…って、自分の奥さんが何かやらかした!みたいな言い方…。

ホント、何を考えてるかわからない男だ。



みんなから離れ、グラウンドの脇の芝生の部分に座り込む。

部員が着替えでグラウンドから捌ける中、俺達二人は着替えもせず、練習着のまま話し込んだ。



『…で、嵐さんと幼なじみって、ホントなんすか?』



核心をついた質問をぶっこむと、蜂谷さんは間を置いたのち、静かに頷いた。




『…そうなのよ。美央とは、幼稚園から一緒。で、小学校もずっと一緒だったけど…小四の時にアイツの親、離婚してね。母親と実家に戻ったのよ。転校していった』

『転校…』

『ちなみに、大河原と同じ小学校に転校した。それから高校入学まで会ってない』

『………』

そうだったのか…。

だから、『覚えてなかったくせに』か。

一度離ればなれになってるんだ。

…って、大河原さんと同じ小学校とかいう情報、いらない。




『…ガキん時から気の強い女でさ。いつも1.5倍話を盛って自慢気にアピールするのよ。周りはだんだんウザくなってくるのか、あまり美央のことを構わなくなってね』

『…』

昔も今も一緒?

『みんなに構われなくなって、泣きそうにしてんのが可哀想でさ。俺は一緒に遊んでやった』

『…優しいんですね』

『《あんまり自慢すると聞いてる方は嫌になるぞ》とか《自分の話ばかりすると嫌われるぞー》とか《上から目線気を付けろー》とかアドバイスもしてやったし?』

『………』

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