王子様とブーランジェール
「理人は?」
「アイツ教室にいる。夏輝の様子見てきてって言われてさ」
偵察を送り込んで来やがったか。
今、お会いしたら、きっとまたくどくど言われる。
突然乗り込んできた友人二人を、小部屋に招き入れる。
小部屋の模様を目にした二人は『ほぉー』と声をあげた。
「何これ。おまえ、ここに住んでんの?」
「いや…家具はもう置いてあった」
「ミスターになるとこんなものが貰えるのか。秘密基地かって」
「秘密基地。いいな。その響き」
おじゃましまーす!と、陣太はソファーにドカッと腰掛ける。
まるでモデルルームの見学に来たおじさんだ。
やれやれ。
そう思いながら、ドアを閉める。
だが、すでにリラックスしてしまった陣太とは逆に、咲哉は俺の傍にじっと立ったままだ。
あまり面白くなさそうな表情で、こっちを見ている。
「…どうした」
「あのよー。こんなの水くせえんじゃねえの」
「は?」
咲哉は口を尖らせているが…俺には何のことかわからず。
首を傾げてしまう。
しかし、理解していないことがバレバレなのか、咲哉は更にムッとしていた。
「…さっき、理人から聞いたぞ?先週のこと!いろいろ大変だったんだってな?」
「あ、あぁ…」
理人のヤツ…喋るなっつーの。
「何があったか何も言わねえで、一人で抱え込んで引きこもろうとするとか、ないんじゃねえのって!」
「えっ…」
ひょっとして…怒られてる?
何で?
「夏輝くーん。僕たちは友達ですよ?」
ソファーに深く腰掛けている陣太が、こっちを見てニヤニヤしている。
一方から怒られ、はたまた一方には笑われ?
何だこれ。
「友達…え?」
「え?だって夏輝いつも確認してんじゃん。『俺達、友達だよね…』って。何の心配してんだか。…おいおい。今更違うってーの?」
「や、それは…」
「俺達友達でしょー」
「………」
はっきり言われると、照れる…。
友達…。
「女どうこうどうでもいい。でも、俺達は夏輝の友達だから、おまえが悪者だろうがおまえの味方。で、ございます」
連発されると、照れる。
それに、味方、か。
でも…ちょっと嬉しい。
「陣太、いいとこ取りすんなよ」
「だってー。咲哉、怒ってばっかりいるんですもの」
たいして面白くもないのに、失笑、吹き出してしまった。
それは、ちょっと、いや、だいぶ嬉しくて。
一人より、誰かといる方がいいのかもしれない。