王子様とブーランジェール




辛い時ほど、楽しいことを。

…完璧、逃避行動なんだけど。

自己防衛に走ってんな。



でも、すでにチキンなことをやってるから、こんぐらいの逃避、なんてことないか。



友達って…ありがたい。





翌日も、プチ引きこもりは継続。

火曜日は朝練がないので、学校に来たら速攻で秘密の小部屋に向かう。

真っ先に、冷蔵庫に弁当と飲み物を入れた。



そして、時間ギリギリまで小部屋にいる。

なるべく教室にいないようにする。



人の目を逃れ、ひっそりと。

予鈴と共に、教室に滑り込めばいいか。



…だなんて、思い。

時間潰しをする。



ブラブラと小部屋を出ると、すぐの正面の壁の一部分の箇所が、パッと目に入る。

これは、落書き…?



…落書きというよりかは。

メッセージ、寄せ書きのようなものだ。



1メートル四方ほどの範囲にズラリと無造作に書かれた落書きたち。

気になって、顔を近付けてまじまじと見てみる。




これ、誰書いたんだ?

…とは、言うまでもないだろ。

代々この小部屋の住人だった人達。

ミスター達が書いたんだ、きっと。




《boys be anbitious!》

…スペル間違ってる。ambitiousだろ。



《一日一膳》

え?何?少食?



《永遠の愛!愛羅武勇》

ここ、進学校だよね?ヤンキーいたの?



誤字脱字が多い。

ミスターってバカばっかりなの?

相合い傘も書いてあって、時代を感じる。




一番目を引いたのは…何だこれ。



その落書きエリアのど真ん中に。

でかでかと…牛の絵?

絵の牛のボディには区切りの線がいくつか書かれており、区切り毎に…字?

カルビ?ハツ?…タン?



…あ。あぁ、これ。

肉の部位のイラスト?

何でこんなもの書いた?



牛の絵の隅に《Hibino》とサインが。

…日比野?

って、ひょっとして、仙道先生の時代のミスター?

本当に変わった人だったんだな…。



しかし、そこで。

俺は発見してしまった。

とあるひとつの落書き…メッセージを。




(これは…?)



鮮やかな碧色のペンで、大きく描かれたハートマークの中に、英語のメッセージが。



…えっ。嘘っ。

う、嘘っ。嘘!



目にした事実に、思わぬ憶測が飛んでしまう。



《Aoko loves Maito》



あおこ…あおこ?



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