王子様とブーランジェール
だが…。
「よっ!夏輝、合コン頑張って来いよ!」
教室を出ようとすると、後ろから背中を叩かれた。
陣太…!
「しっ!…余計なこと口にするな!」
「は?何で何で?だっておまえこれから先輩と合コンだろ?」
「こ、こら!うるせぇぞ!」
悪びれもなく、堂々と口にしやがって!
周りに聞こえるだろ!
…もう、聞こえていた。
「…は?合コンって何」
陣太の後ろから、デカいのがぬっと登場した。
一番聞かれてはならないヤツ…!
理人は俺達の方へと、グッと顔を近づける。
「合コン?誰か合コン行くの?」
背筋がヒヤッとした。
…最近、理人とは、顔を合わせれば『チキン』と言われ。
小言が始まるため、とてもウザい。
だから、あまり顔を合わせないようにしていたのだけども…。
ここでタイミング良く突っ込んでくる?!
「い。いやいやいや…合コンなんて…ありませんよ?いやいや…」
そう濁しながら、後退りをして離れる。
「は?夏輝、誤魔化そうとしてんのバレバレなんだけど?」
「誤魔化そうだなんてそんな…」
「夏輝はすぐ顔に出るし…あっ!」
後退りして距離を離したのち、おもいっきりダッシュをかける。
めんどくせーから逃げてしまえ!
背中に「逃げんなこのチキン!すけこまし!」と言葉を投げ掛けられる。
すけこまし!何だと!
…もうバレとるわ。
追っ手から少しでも離れるために、駆け足で階段を降りて行く。
そうしていると、あっという間に正面玄関口へと辿り着いた。
辿り着いたと思ったら、待ち人登場している。
「よぉー!竜堂、お早い登場だな?そんなに合コン楽しみだった?なぁ?」
大河原さんだ。
ニヤニヤしながらこっちに寄ってくる。
お早い登場の理由は、楽しみだったからではない。
追っ手から逃れてやってきたんだっつーの。
大河原さんは寄ってくるなり、俺の背中を叩きながら押してくる。
まるで誘導されてるかのように。
「3ON3っつったけどな?向こうは四人で来るらしい。竜堂、おまえ二人相手しろ」
「…何すかいきなり。来て早々そんな話やめてくださいよ」
この人には節操というものがないのか。
「殿様コースになったら、俺んちの道場で頼むわ。ぶははは!」
俺んちの道場?
…あ、この人、家で柔道道場やってるんだっけ。
親は柔道の先生なのに、息子サッカーって…。
しかし、神聖なる道場で殿様コース…武道なめてんのかこの息子わ。
めんどくせーな…。