王子様とブーランジェール
ホント、めんどくせー。
殿様コースなんか絶対にやんねーよ。
バカみてえ。
久々だよ。こんなの。
ため息が出る。
(………)
…高校では、こんなのやめようと思ってた。
想ってる人がいるのに。
向かうその場所に、彼女はいないのに、そこにあえて参加して遊ぶとか。
心がちぐはぐして、何も悪いことをしていないのに罪悪感に苛まれて。
自分に嘘つきたくないから、こんなのもうやめようと思っていたのに…。
《夏輝、ありがと》
そこに、桃李は…いないんだぞ?
辺りを見回すと、真っ暗で。
そこはどこかわからなくて。
記憶に残ってる、桃李の声だけが頭の中に響いてくる。
《…助けに来てくれて、ありがと》
(………)
…俺は、今。どこにいるんだ?
何を…してるんだ?
「…おいおい!何ボーッとしてんの!」
大河原さんに背中をおもいっきりバシーン!と叩かれる。
現実に引き戻されるように、我に返った。
俺、今…どこに行っていた?
「とりあえずおまえ、家に帰って私服に着替えてこいや。家まで着いていってやるって。くくく…」
「…は、はぁ?…いいっすよ。家に着いて来なくても。イオンで待っててください」
「はぁ?!おまえに逃げられるかもしれないからな?着いていってやるって」
逃げられるって…信用ねえな。俺も。
大河原さんが家に来るとか絶対嫌だ。
めんどくせー。
めんどくせー…。
「さあさあ。そうとなれば行くぞレッツゴー!」
「ったく…」
大河原さんはなぜかテンション高めに、俺の背中を後ろから押して進む。
何でこんなに嬉しそうなんだよ。このイボゴリラ。
おまえの目当ての女もかっさらうぞ。
そんな様子を感じて、ため息が思わず出る。
すると、「ため息ついてんじゃねえ!おまえもアゲアゲで行け!」と怒鳴られる。
アゲアゲ…ねえ?
「ちょっと…待った!!」
至近距離で、突然の大声に体が反射的にビクッとした。
思わず辺りをキョロキョロと見回してしまう。
でっけえ声…!
だ、誰だよ!
…と、言うまでもなく。
その声の主は、俺らの前に立ちはだかっている。
艶のあるショートヘアは振り乱れていて。
息せきかけているあたり、走って追いかけてきたのかと思われる。
その表情も、危機迫ったものがあって、気持ち睨まれてる…。
「あゆり…どうした?」