王子様とブーランジェール
何でこんなことになってるんだ。
…と、思ったのも束の間。
会場に到着して、靴を履き替えてボーリングボールを持ってしまったら。
そりゃ当然、楽しむしかない。
重いボールを手に、少しばかりの助走をつけてアンダースローで丁寧に流すように並んだピン目掛けて投げ込む。
スピードのついたボールは、真っ直ぐとピンたちのど真ん中に飛び込んでいった。
「おおーっ!」
ピンがバラバラと次々に倒れていく。
全部倒れた…よし、やった。
「ストライク…マジか!」
「3連続?夏輝、おまえはボーリングも出来るのか。さすがミスター」
「イェーイ!…って、ミスターっつーのは余計だコラ」
ハイタッチしながら、翔の頭を小突いてみる。
久々だからかなんなのか。
調子が良いぞ。今日は。
「コツ掴んじゃえば簡単だぞ?」
「そのコツを掴むのが大変なんだろうが」
人数が多いので、5つのグループに別れてそれぞれゲームを行う。
他のレーンの様子をふと見ると。
…あぁ、各々元気よくやってるわ。
向こうのレーンから、大爆笑が聞こえる。
そこは、なんと、あの負け神のいるグループだった。
負けまくってるのに、神。
「ぶははは!…咲哉!おまえさっきから何やってんの!」
「バコン!って、すげえ音したぞ?」
「何連続ガーターよ!ぶははは!」
やはり、笑いの対象は負け神だった。
「…え?え?何で?…っつーか、何でみんなボール真っ直ぐ進むわけ?…っつーか、笑うな!なぜ笑う!」
大爆笑されている意味がわからないのか、やたらとムキになっている。
ムキになられると、ますます笑われるぞ。
同じグループの奴らは更に大爆笑していた。
「咲哉の投げたボール、微妙な変化球くさいな。変なスピンかかってる」
「咲哉、これはボーリングだぞ?野球じゃねえぞ?変化球投げたって仕方ない」
「えぇっ?!」
遠くから俺も見てたけど。
フォームがバラバラ。手首使いすぎ。
変なスピンがかかっていて、レーン中盤から急にフレームアウトしてガーターになってしまう。
咲哉、おまえは神だよ。
笑神だ。
何ゲームも何ゲームもやって。
ちょっとキリの良いところで休憩を入れる。
飲み物を取りに行くついでに、その場に留まって、遠くから仲間たちの楽しんでいる様子を眺めていた。