王子様とブーランジェール
他のレーンの連中も俺らと同じくゲームを終えたのか、まだゲームが残り続いているレーンに集まっていた。
そこは咲哉のいるレーンで、みんなで笑神・咲哉をいじっている。
「咲哉、もう一球投げてくれ!投げろ!」
「チェンジアップ投げろ!」
「横に流れるからスライダーじゃね?」
「…あぁーっ!…うるせぇぞ!黙っとけ!」
ムキになりながら、ピン目掛けてボールを投げる咲哉。
バコン!と音をたてて、またしてもボールは変なスピンがかかってガーター…。
ぶっ。
さるぼぼ同様、天丼ネタになってやがる。
神、降りてくるな…。
楽しいわ。
「夏輝、おつかれ」
「…あ?あぁ、あゆりか」
声を掛けられて気が付くと、右隣にはあゆりがいた。
「楽しんでる?」
「…そりゃあな。咲哉はマジ神笑える」
「自分からボーリング大会企画したのにね?あんなに下手くそだとは思わなかった…」
そう言って、苦笑いを浮かべている。
「ホント。観楓会?よく思い付いたな。宴会じゃねえっつーの」
「大会前の一致団結コミュニケーションは必要だって優里沙さんに言われてたから。前々から狙ってたの。やろうと思ってた」
「へぇ…」
会話が途切れ、しばらく二人で並んでみんなの様子を見守る。
変な沈黙が流れていて。
何か話そうと口を開きかけると、あゆりの方が先に口を開いた。
「この間、大変だったんだって…?」
その一言に、思わず固まってしまう。
この間って…?
何の…まさか、あの事…か?
返す言葉に困っていると、あゆりは話を続ける。
「…お姉ちゃんと優里沙さんから聞いたよ?…神田さん、夏輝のファンの子たちにイジメられてたって」
「………」
「大変、だったね…」
あゆりは、知ってたのか。
桃李が女子連中や嵐さんにイジメられた件を。
「でも、よかったね」
「…え?」
「夏輝と狭山さんが間に入って解決したんでしょ?…これで神田さんも大丈夫だよね?」
その事は…知る由もないか。
解決…。
端から見れば、そうなのかもしれない。
だけど、それは…。
あの事を思い出すと、かなり落ちる。
俺のせいで、桃李が…。
言葉を返せないでいると、顔を覗き込まれる。
あゆりと目が合ってしまったが、逸らしてしまった。
「…夏輝?」
「ごめん。悪い。その話は…」
「…え?」
あゆりの声に、疑問の念が混じっているのを感じた。