王子様とブーランジェール
「第一、何でそんな弱気になってんの?!らしくない!…らしくないよ!夏輝らしくない!」
「ら、らしくない…?」
一歩詰め寄られ、思わず退いてしまった。
迫力ある…。
「そうだよ!『アイツの傍にいない方がいい…』だなんて、まるで悲劇のヒーロー気取りみたいな、そんなキャラだった?!」
「えっ…」
「どこに潜んでいるかわからない敵に怯えるような…そんなビビりだった?!夏輝は!」
状況一転?なのか。
急に総攻撃されている。
戸惑いのあまり、言葉を失っていた。
俺、らしくない…?
「…今の俺、らしくないの…?」
ふと思った疑問をポツリと呟いてみる。
すると「はぁっ?!」と、キレかけの返答をされてまたしてもビビってしまった。
な、何で?
何でそんなに怒る?!
…と、口にしかけた時。
あゆりがボソッと口にした。
「…相手が先輩だろうが、先生だろうが忖度なし。自分の意見は堂々とはっきり言っちゃう。超小生意気の超俺様」
「…は?俺が?」
「そう。公式戦のデビュー戦でも、動きが悪いバラバラの先輩に対してはっきりとモノを申したり。『冷静さを欠くなんざ、話にもなんねえよ!』ってね」
「はぁ…」
そんなことも、あったかな…。
「…でも、超俺様だからと言って、天狗になってるワケでもなく。みんなに平等にすごく優しい。…男女構わず、ね」
「優しい…か?」
「俄然負けん気、諦めが悪い。試合に劣勢でも、最後まで諦めない」
へぇ…俺が。
「最後の最後まで勝てる術をずっとずっと一人で模索するぐらい、諦めが悪い。試合、もう負けてんのに、負けてないって顔してたし?」
「………」
それ、褒め言葉?ディス?
ただの負けず嫌いじゃねえか。
「…少なくとも、好きな人の為を思って身を退いたりするような人じゃない。私の知ってる夏輝は。『全部俺が何とかする!』なんて言っちゃいそう」
「…おい」
「何事も諦めないし、身を退かない。大切なモノが傷付けられたら、敵が誰であれ、体を張って全力で守る人」
「………」
「…例え、それが自分のせいだとしても、それを取り返すぐらいの勢いで強気でどこまでも行く人。どんな時も挫けない、強い人」
そうなのか…。
今の俺、そうじゃないのか…?
何で、そうなってしまった?
「…少なくとも、そんな人。…私の好きになった夏輝は…」