王子様とブーランジェール



たくさん褒められたのか、ディスられたのかはわからんが。

自分のイメージにない自分を知らされると、なんだかむず痒い。



「おまえ…盛りすぎじゃね?」

「ううん。夏輝はそんな人。夏輝のこと、ちゃんと見てるもん。私」


即答された。

そこまで言い切られるなんて。

何の反論もしようがない。

ため息出てしまった。

反論出来ずだからか、ついつい皮肉めいたことを口にしてしまう。



「…ったく。マネージャーってのは、よく見てんな?俺も知らないこと新発見だっつーの」

「………」



…あれ?

今度は急に黙りこんだ。



あゆりの方を見ると、こっちを見つめたまま、眉間にシワを寄せて微妙な顔をしている。

そのうちため息をついて、うつむいてしまった。



え。俺。

何かマズイこと言った?



「もう、何で…?」



弱々しい声で呟かれる。



「な、何でって…?」



すると、顔をガバッと上げた。

微妙な表情のまま、目がつり上がっている。



「…何で、気付かないの!本当に天然?!」

「はぁっ?!」



て、天然…?!

最近、よく言われるんだけど!

ここでも?!



「これだけ言ってるのに、わからない?!」

「な、何をだよ!…俺が強気の負けず嫌いだとか、諦めが悪い人間だってことか?!」

「…違う!バカ!…もぉー…」

「バカ…!」

理人だけでなく、あゆりにもバカ呼ばわりされるなんて!

…バカは桃李だろ?

アイツ以上のバカ、見たことない。



「さっきから言ってるでしょ…」



力の抜けた弱々しい声は、震えていて。

でも、目力強く、真っ直ぐに見つめられている。



「夏輝のこと、いつも見てるって…好きだって…」



…いや、俺だって。

聞き流していたワケじゃない。



《私の好きになった夏輝は…》



いや、でもそれは。

loveではなく、likeの方だとばかり…。



…と、ここで。

自分の立たされている状況を、一気に理解してしまった。



「夏輝?私…」



これは、まさか…。

…って、確認しなくてもわかる。

でも…。






「ずっと、夏輝のこと好きだった…」





え。

あ、あぁ…嘘っ!




まさか、あゆりが。

俺のことを、そんな風に思っていたなんて。




…だって、あゆりとは中3の始めに塾で知り合って。

普通に話をして、たまにバカ言い合って。

たまには一緒に遊びにも行ったけど。

俺的には『仲間』みたいな…。



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