王子様とブーランジェール



で、高校も一緒になって。

今は同じ部活の選手とマネージャーで。

ここでも『仲間』で…。



で…って、わからなかった…。

あゆりの想いに気付かなかった…。

何でだ…?




茫然としてしまう。

『仲間』と思っていた人からの、まさかの告白に。

気付かなかったショック…っていうのか、ただ驚きだ。




茫然のあまり、またしても言葉を出せないでいてが。

あゆりは真っ直ぐとこっちを見ていた。




「…ねえ、夏輝」

「…えっ。え、え、あ、うん。何」

「ふふっ」



戸惑いを隠せないその様子に、あゆりはブッと吹き出している。

桃李のように、どもってしまった。

カッコ悪っ。笑われた。




「…夏輝、神田さんのこと諦めたんでしょ?」

「あ…」




そうだ。

あゆりが今言った通り。

俺は、アイツから身を退いた。

アイツを、どこかに潜んでいるかもしれない敵から守るためだけど。



でも…他人に、その事実を確認されると。

そのことを改めて言葉として口にされると。



(………)



胸が、痛む。

どうにもならない感覚が、体にまとわりついた。




そんな俺の心中を知る由もなく、あゆりは自分の想いをぶつけてくる。



「…だったらさ、私と付き合わない?」



あゆりと…付き合う?

え、えぇっ?!

って、さっきから驚かされることばかりなんだけど。



俺と…あゆりが?



「私だったら、そんなイジメになんか負けない。返り討ちにしてやるけど?この強気で?」

「おいおい…」

「だなんてね?でも、頭良くそこは切り抜けるから。夏輝の負担にはならない。させない」



俺の負担にはならない、か。



…そうだな。

あゆりはお節介世話焼きだけど、立ち回りも上手くて、気遣いが出来る。

よく気が付くし、しっかりしてる。

アイツ…桃李とは、違って。





あゆりが傍にいれば…きっと楽なんだろうな。

俺のこと、よくわかってるし。




自分のことで精一杯で、周りを見れない…俺の想いでさえ気付かない、桃李に比べたら。



あゆりなら、桃李みたいにドジ踏んだり、メソメソして。

俺をイライラさせることもないだろうし。



ダメ女な桃李とは、違って…。





《ねえねえねえ、夏輝、あのねっ…》





…あぁ、でも。

なぜなんだろうか。




何かにつけて、桃李のことばかり、考えてしまう。

こんな状況でも。



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