王子様とブーランジェール
「ぎゃあぁぁっ!!」
桃李!
悲鳴が汚い!
ダッシュで人混みを掻き分ける。
間に合わないか?!
高瀬はすでにゴミ箱を振り下ろしており、頭を抱えてしゃがみこむ桃李にゴミ箱が襲いかかる。
っつーか、マジ許されないわ!
冗談じゃねえぞ!
間に入るんじゃ、間に合わない。
そう感じれば、無意識に足を踏み込んでいた。
利き脚の左足を、振り上げる。
ゴミ箱のボディにおもいっきり踵を入れてやった。
「…あぁ?!」
バコン!と、 大きく重い音が響き、衝撃で高瀬の手からゴミ箱が吹っ飛ぶ。
ゴミ箱は、中のゴミを撒き散らしながら、勢いそのまま数メートル先の壁に、再び大きな衝撃音を鳴らして激突した。
間に合った…!
同時にギャラリーの女子の悲鳴やら、どよめく声が沸き上がる。
「…なつき?」
間一髪。
桃李は無事のようだ。
「…はっ?…はぁぁっ?!」
高瀬は、自分の手と吹っ飛んだゴミ箱を交互に見ている。
何が起こったか、わからないといった状況か。
そして、目の前にいる俺の姿を見て、何となくわかってきたのか。
俺をぎっちりと睨み付けながら、怒りの表情となっていた。
「…おまえ!」
「あーら。足癖悪くてすみませーん?センパイ?」
ちょっとふざけて鼻で笑ってみる。
さっきまでは穏便に済ませようと思っていたが。
女子に手を上げた時点で、もうないぞ。
すると、ゴリラセンパイはますますお怒りの様子だ。
「おまえ!いったい何なんだ!」
「何なんだ?…いやいやそれはこっちのセリフで。何があったか知りませんが、女子に手を上げるとかなくないですかぁー?」
「こ、こいつ…!」
ちょっと可愛い子ぶってみた。
重なるおふざけのおかげで、ゴリラの高瀬は見事にお怒りだ。
顔がビキビキとひきつっている。
「おまえ…一年の竜堂だな?蹴りで狭山さんから黄金バットを取り上げたという…」
「…さぁ?」
狭山との話、そこまで広がってんのか。
それは心外だ。
高瀬の右手がワキワキと動いている。
…そろそろ来るか?
「…小生意気な一年坊主だな?!」
予想通り。
高瀬の右手が動く。
俺の胸辺りを目掛けて飛んでくる手の平。
胸ぐら掴んでやろうってか?
角度的に、お見通しだ。
…遅い!
自分の胸ぐらを掴まれる前に、高瀬の飛んできた右手の手首を狙って、胸元手前で掴む。
俺の右手の方が、一足早かったな?
その手を掴み捕らえたら、一層強く握ってやる。
ミシミシと音がしてきた。
「…くっ!…」
高瀬は、手を振りほどこうと必死だ。
しかし、逃さない。離してやるもんか。
高瀬がシビレをきらして、また怒鳴り始めた。
「…離せ!離せコラァ!」
「やだなぁーセンパイ、大人しく離すワケないじゃないですかぁー!」