王子様とブーランジェール
「おーい!ごめん待たせて!」
カウンターの方から咲哉の声がした。
顔を上げると、キャラメルフラペチーノを持ってこっちにやってくる。
おまえ、それいつも注文してんな。美味いの?
「すげー待った。コーヒー無くなったし」
「ごめんごめん引き止めて。…あ、もう一杯飲む?買ってきてやる」
「別にいいよ」
「いやいやいや。付き合ってもらってんだし。奢る奢る」
そう言って、咲哉はカウンターに逆戻り。
数分後、さっき注文したのと同じものが登場した。
お互い席に着いて。
コーヒーとフラペチーノで乾杯なんてしちゃって。
否応なしに、本題に入ってしまう。
「…あゆり、家まで送ってきたの?」
さっきのメッセージの内容を確認すると、咲哉は頷いていた。
「まあね。誰かさんにフラれて泣いてたから、慰めてやんないと」
「うっ…随分ストレートに来るな。って、わかっちゃったワケ?」
咲哉は「へへっ」と笑って、答える。
「わかっちゃったっつーか…あゆりが夏輝に惚れてんのは、サッカー部一年みんな知ってるし?」
「…はぁっ?!」
「で、さっきフラれたのも恐らく何人か勘づいてる?みたいな?」
「何っ…マジか」
物凄く意表を突かれた。
俺自身、さっきまで気付かなかったのに…一年みんな知ってるって、どういうこと?!
「夏輝くんは自分のことには鈍感ですな。まあ、あゆりはマネって立場もあるから、そんなにグイグイと行けないでしょ」
いたずらな表情で笑われる。
サシで話のわりには、咲哉はいつも通りだ。
正直、ホッとした。
何を言われるのか構えてたし。
「俺は、中学ん時から知ってたけど。…夏輝のことも」
「お、俺のことも?何で?」
その笑顔が、苦笑いに変わる。
…そういや、咲哉とあゆりは中学一緒だっけ。
「学校でさ『通ってる塾で好きな人が出来た』って嬉しそうに話すんだよ、アイツ。いつもいつも聞かされてたよ」
「いつも?」
「うん。三年時は同じクラスだったし。『竜堂夏輝っていうイケメンで、サッカーやってて、星天高校受験する』って程度の情報だったけど」
中学の塾通ってる時代?そんな前から?
全然気付かなかった…。
よく話し掛けてくるなとは思ってはいたけど。
そこらの女子みたいに、下心が見え隠れしている感じでなかったから、警戒はしてなかった。
でも、まさかこんなことになっていたとは。
「ぶっちゃけ…すげえムカついてた」