王子様とブーランジェール




「おーい!ごめん待たせて!」



カウンターの方から咲哉の声がした。

顔を上げると、キャラメルフラペチーノを持ってこっちにやってくる。

おまえ、それいつも注文してんな。美味いの?



「すげー待った。コーヒー無くなったし」

「ごめんごめん引き止めて。…あ、もう一杯飲む?買ってきてやる」

「別にいいよ」

「いやいやいや。付き合ってもらってんだし。奢る奢る」

そう言って、咲哉はカウンターに逆戻り。

数分後、さっき注文したのと同じものが登場した。



お互い席に着いて。

コーヒーとフラペチーノで乾杯なんてしちゃって。

否応なしに、本題に入ってしまう。




「…あゆり、家まで送ってきたの?」



さっきのメッセージの内容を確認すると、咲哉は頷いていた。

「まあね。誰かさんにフラれて泣いてたから、慰めてやんないと」

「うっ…随分ストレートに来るな。って、わかっちゃったワケ?」

咲哉は「へへっ」と笑って、答える。

「わかっちゃったっつーか…あゆりが夏輝に惚れてんのは、サッカー部一年みんな知ってるし?」

「…はぁっ?!」

「で、さっきフラれたのも恐らく何人か勘づいてる?みたいな?」

「何っ…マジか」

物凄く意表を突かれた。

俺自身、さっきまで気付かなかったのに…一年みんな知ってるって、どういうこと?!

「夏輝くんは自分のことには鈍感ですな。まあ、あゆりはマネって立場もあるから、そんなにグイグイと行けないでしょ」

いたずらな表情で笑われる。

サシで話のわりには、咲哉はいつも通りだ。

正直、ホッとした。

何を言われるのか構えてたし。



「俺は、中学ん時から知ってたけど。…夏輝のことも」

「お、俺のことも?何で?」



その笑顔が、苦笑いに変わる。



…そういや、咲哉とあゆりは中学一緒だっけ。




「学校でさ『通ってる塾で好きな人が出来た』って嬉しそうに話すんだよ、アイツ。いつもいつも聞かされてたよ」

「いつも?」

「うん。三年時は同じクラスだったし。『竜堂夏輝っていうイケメンで、サッカーやってて、星天高校受験する』って程度の情報だったけど」




中学の塾通ってる時代?そんな前から?

全然気付かなかった…。

よく話し掛けてくるなとは思ってはいたけど。

そこらの女子みたいに、下心が見え隠れしている感じでなかったから、警戒はしてなかった。

でも、まさかこんなことになっていたとは。



「ぶっちゃけ…すげえムカついてた」



< 720 / 948 >

この作品をシェア

pagetop