王子様とブーランジェール
「嫌なヤツったって…それは」
「ついでに言えば、今日あゆりがフラれたのも、実はホッとしてる自分がいて。本当に嫌になっちゃった。好きな女の恋愛、応援しろよって感じ…」
更にガックリとしていた。
そこまでガッカリすることか?
誰しもが、少なからずその反応だと思うけど。
俺だったら、好きな女…桃李の恋愛の応援はしない。
むしろ、その男を殺す。
でも、そんな自分にガッカリしている咲哉…やっぱ、おまえはいいヤツだよ。
「…あゆり、様子どうだった?結構落ちてるとか…」
チラッと見えたあの涙が忘れられなくて、気になって聞いてしまう。
俺のせいなんだけど…。
でも、咲哉は笑顔のまま答えてくれる。
「夏輝がその心配しなくていいから。大丈夫だ」
「でも…」
「もう結果はわかってることだったし、直接伝えられて一区切りつけられたって言ってたし」
言葉の通り大丈夫なら…安心してもいいのかな。
「今日は何か、ごめん…」
今日の自分のやらかしたことに、改めて頭を下げるが。
「………」
急に訪れた沈黙が気になってしまった。
咲哉、急に黙った。
何で。
「…何それ。『今日は』って何に対するごめん?」
「…え?」
「あゆりのことは仕方ねえよ。恋愛ってそんなもんでしょ。必ずしも両思いではないんだから、誰かが傷付くのは仕方ねえ」
「あ、うん」
「でもさー。夏輝はそれより自分の心配してくれや」
「は?」
「ほら。今日みたいにヤケクソになって合コン行こうとするとか。ない。違うだろ」
「え、えぇっ?!」
急に話をすり替えられた。
何で、急にその話!
「っていうか、呼び止めたのはそこが本題なんだけど?さっきのあゆりのことじゃない。最近の夏輝について。ヤケクソで合コン行こうとしたことについて」
「や、ヤケクソって!…」
その続きは、何も言えない。
よく考えたら、本当にヤケクソだったかもしれない。
…ちっ。何で急に怒られモードになってる?
すると、咲哉は咳払いをした。
「…やっぱり、夏輝のやってることは、違うと俺は思う」
「違うって…何が違うんだよ」
「神田のこと。神田を守るために関わらないとか。身を退くとか。らしくない」
らしくない?
そんなこと言われたって。
俺だって、苦渋の決断だったんだ。