王子様とブーランジェール
…その後、咲哉とは一緒にスタバを出て、一緒の方向の地下鉄に乗る。
咲哉は途中の駅で下車し、そこで別れた。
そこからは一人、地下鉄を降りてバスに乗り継ぐ。
つり革に掴まって、バスに揺られながら、ここ最近のことを思い出していた。
《傷付いた傷付けたは、仕方ねえって言ってんの!だって俺達、恋愛してんだよ!》
…恋愛、ねぇ。
男子が『恋愛』とか、恥ずかしいじゃねえか。
咲哉ってば、よくもそんなサラッと言えるな?
ったく…。
しかし、それは事実なので。
照れてる場合ではない。
《…だけど、大事なのはその後だよ。傷付いた傷付けた後、どうするか…》
…俺、その大事なその後。
何をしてただろうか。
関わらないとか、距離を置いて…逃げた?
『俺のせい』っていう罪悪感に苛まれて、辛くて。
小部屋に引きこもって、現実逃避。
それだけ。
(何だか…)
随分、カッコ悪いことしてんじゃねえか。
桃李の前で。
俺は、何なんだ?
今まで、自分自身…どうなりたかったんだ?
少なくとも、今みたいなチキンヤローではなかったはずだ。
思い返すと、今までの自分のやってきたことが、とても恥ずかしくて、後悔しかない。
ちっ…。
桃李、どう思ったんだろうか。
俺のこと。
だっせぇヤツとか、幻滅してるだろうか。
…いや、何も思ってないか。
俺がいなくても、普通に過ごしていたし。
…大切にされていたことに、気付いたのに。
俺は、なんてことをしたんだ。
ホント、後悔しかない。
…でも。
(大事なのは、その後どうするか、か…)
顔を上げると、バスの窓ガラスには制服を着た自分の姿が映っている。
目を凝らすと、窓の向こうの景色が見えた。
夜の公園だから、真っ暗だ。
奥にひとつ、一際大きい街灯が見えるのみで。
(………)
まず、前を向けたような気がした。
「…さぁーっ!七日目の正直ですわよ!」
秘密の小部屋で、今日も負け神が吠えるこの昼休み。
どら衛門カードバトル、開始でございます。
黙々とルーレットを回し、コマを進める。
黙々とカードをゲットする。
…よっしゃ。俺のファーストゲットはクリオネどら衛門だ。
「おし。平和像どら衛門ゲット」
「ういろうどら衛門、何かスライムみてー」
黙々とゲームは続く。