王子様とブーランジェール
そして、とうとう。
負け神の愛しいアイツが登場した。
新たなカードがめくられる。
「…キターッ!…さるぼぼーっ!」
金太郎のような格好をしたアイツの登場に、負け神咲哉は沸き上がった。
興奮してるぞ、こいつ。
「ルーレット俺からだぞ!イェイイェイ!」
偶然にも、次のルーレット番は咲哉だ。
すごろくの盤を見てみる。
…何っ。咲哉のコマ、さるぼぼのマスから4つのところにあるぞ。
ひょっとしたら…奇跡は起きるかもしれない。
「チェイサー!」
勢いつけて、咲哉はルーレットを回す。
カタカタと音を鳴らして廻るルーレット。
やがてスピードが落ちて、ゆっくりと止まる。
神とは、万人に平等である。
その事を示す、結果となった。
「…イェーイ!…マジ、4だぜ!さるぼぼゲットぉーっ!」
マジか。
奇跡が…起きた。
手早くコマを進めて、サッとカードを奪うように取る。
この上ない興奮なのか、変な奇声を上げた。
「やったぁーっ!さるぼぼウォウォ!ウォウォウォウォ!」
そして、一人で万歳三唱をする。
異常なくらいなまでの盛り上がりだ。
「嘘っ。マジ。とうとうゲットしやがった」
「神降りてきたな。咲哉ブラボー」
「はいはい。よかったよかった」
ギャラリーたちのこの心のこもってない激励。
まあ、気持ちはわかる。
カード一枚に、何?この執念。
諦め悪くて、呆れていたぞ?
だが、そんな俺達のシラケぶりをも構わず、咲哉は喜びに満ちていた。
「諦めなくてよかったー!諦めなければ何とかなる!」
諦めなければ…か。
《まだ諦めてないからな?》
《告白するまでは絶対に諦めない》
そう…だったのか。
「はいはい。サクサクと進めるぞー」
「って、咲哉。さるぼぼの前にちゃっかり西郷どんゲットしてんじゃねえかよ」
「神降りてきても、笑神もセットで降りてくんだな。そこははずさねえなー?」
「諦めなかったらいろんな神が降りてくんの。幸せー」
「なんかイラッとすんな」
そして、ゲーム再開。
またしてもみんな、ルーレットを黙々と回し始めた。
「…あのさ」
このタイミングで良かったかは、わからないが。
重みを乗せた一言をかける。
「…あ?どした夏輝」
ゲームとルーレットの手を止め、小部屋の住人全員が、一斉に俺を見た。