王子様とブーランジェール
でも、いつまでも逃げてられない。
腹は、括る。
「…咲哉」
教室に戻るために廊下を歩いている。
隣を並んで歩いている咲哉に、話し掛けた。
「どした。下界に降りてきた神様」
「………」
おまえまで、神様呼ばわりやめてくれ。
俺達、友達だよね…?
「俺…桃李と話をする」
「お、ホント?」
「事件のことと、突き放したこととか…謝る」
「…へぇ」
相槌を打って、笑顔で返してくれる。
話そう。言おう。
辛い思いさせてごめん、とか。
関わらないとか言ってごめん、とか。
前みたいに首突っ込んで関わりまくっていたい。
…好きだから。
…だなんてことが、面と向かって言えるのだろうか。
核心を突く話になるからな?
「…あ。やべぇ…緊張してきた」
「今からかよ…まさか今すぐ言うの?!」
「いやいや。近日中」
「だよなー。びっくりした。まあまあ、とりあえず前みたいな関係に元通りでいいんじゃねえの?今から緊張するなよ…」
「咲哉、俺だって諦めない。フラれても諦めない」
「え?」
「もしフラれたら…ストーカーになる!」
「はぁっ?!…おいおい、早まり過ぎなんじゃないの…そしたら俺、夏輝が通報されそうなことをしたら、全力で止めればいいの?!」
咲哉の笑顔がひきつりだした。
「いやいや。まさか。そんぐらいの勢いがありますって言いたいんだよ」
「あ、そう、びっくりした…そこで天然発言やめて!」
「え?天然…コラ!」
そんな俺達の横を、後ろで話を聞いていた陣太が「大丈夫だと思うけどなー」と、呟きながら通り過ぎる。
大丈夫?
無責任な発言をするな!
そんな話をしながら歩き進めていくと、教室に到着する。
と、同時に理人が教室の前に立ち尽くしていた。
何も発せず、微動だにせず。
気持ち、茫然としているような。
どうした…?
名前を呼んで声を掛けようとすると、予鈴が鳴って理人はサッと教室に入ってしまう。
俺の存在には気付かず。
何だか、理人らしくない感じだな。
茫然と突っ立っているなんて。
そう思いながらも、予鈴が鳴っているので慌てて教室に入り、席につく。
…だが、俺はその時気付いていなかった。
俺が小部屋に引きこもっている間の昼休みに。
シャバでは、軽く騒ぎになっていたことに。
そして、これから。
大騒ぎが始まる。