王子様とブーランジェール
ニコッとわざとらしい偽りの笑顔を見せてみる。
挑発以外何物でもない。
しかし、女子相手にガチギレしてゴミ箱振り回す、短気な野郎だ。
ちょっと挑発すりゃ、すぐにアツくなって乗ってくれる。
こういう状況において、冷静さを欠くヤツなんか、相手にもならない。
あと、もう一捻りしてやる。
掴んだ右手を自分のもとにグッと引き寄せ、同時に左手で高瀬の肘を下から押し上げるように掴んでやる。
そのまま、右手と左手を同時に時計回りに回す。
「…うわっ!」
すると、高瀬はあっという間に体勢を崩し、膝をついた。
そこを見計らって、左手で高瀬の右肩甲骨らへんを上から押さえつけてやる。
「…痛っ!離せ!」
「えー?センパイ、動けませんかー?」
膝をつかせたまま、前傾姿勢にして固めてやったぞ。
こんなギャラリーの多い場所で、こんな格好、空手部主将としては、さぞ屈辱的だろうに…!
Sっ気全開。
その体勢のまま、高瀬の耳元で囁く。
「…センパイ?女子に手を上げるとか、言語道断ですよね?イライラしてるのか、生理中なのかは知りませんが、武道に身を置く者として、そこのところどうなんすか…?」
「そ、それは…」
「…それは?…何なんすか?」
手首を捻って右腕を内側に少し入れてやる。
「…あぁぁっ!痛い痛い!わかった!わかった!悪かった!すまん!すまん!」
「すまん…?」
「俺が悪かった!…悪かったです!すみません!…だから、離せ!」
「えー?どうしましょう?離すんですかー?」
「おまえは鬼か!」
すると、そんな悶着を起こしている俺達の前に、「あの…」と、全ての原因である桃李がやってきた。
な、何だ…?
桃李はビクビクしながらやってきて、高瀬の目の前にしゃがみこむ。
「せ、せせ、センパイ…さ、さ、サンドイッチ踏んでごめんなさい…」
そう言って、ペコリと頭を下げる。
「あ、あぁ…」
突然の謝罪に、高瀬も唖然としている。
いや、俺もビックリだよ。
普段なら、ビクビクと怯えまくってパニクって、謝罪どころじゃないのに。
「…明日、お詫びの品を持ってきます…ごめんなさい」
「は、はぁ…」
…今日じゃなくて、明日って何!
すると、背後から気配がした。
咄嗟に振り向く。
「…あれー?高瀬、何固められちゃってんの?」
「…って、殿様竜堂ではないか!バカめ!」
げっ…。
このタイミングで登場する?
先代ミスターファンクラブの『残党』。
奈緒美に…狭山!