王子様とブーランジェール
「…理人」
授業が終わってすぐに理人の元へと駆け寄る。
先生も教室から出てないぐらい、すぐ。
…授業中にも関わらず、悶々と考えてしまった。
ひょっとしたら、単に体調不良とか、サボりとかではなく。
また…何かあったのか?
もし、あの時のような事件が起こったのだとしたら、黙ってはいられない。
《…おまえのそれ、『何があっても、すべての敵から桃李を守る!』に、ならねえの?》
なる。なるよ。
何があっても、すべての敵からおまえを守る。
もう、決めた。
『俺のせい』は、もういい。
そんな罪悪感は床に踏みつけて、無くなってしまうぐらい、身も心も張ってやるんだ。
そんな、焦る気持ちも抑えられず、理人のところへと来てしまった。
「…あ?」
不機嫌な声をあげながら、俺の方へと振り向く理人。
目が座っていて…こりゃ相当ご機嫌ナナメだ。
何に怒ってるかは知らないが…。
「あの…桃李は?」
「………」
質問を投げ掛けるが、理人は何を答えるワケでもなく。
座った目のまま、その視線を俺に送る。
ちっ。何を怒ってるか知らないけどよ。
質問にはちゃんと答えろってんだ。
今一度、質問を繰り返す。
「桃李はどこに…」
「もう、関わらないんじゃなかったのか?」
俺の問いに被せるように、ようやく答えたが。
その返答は、どこかトゲがある。
そうだ。
理人への話では『もう関わらないのは何で?』で、終わってるんだった。
改心したこと、事情を説明しなくては。
「…理人」
「………」
言葉での返答はなく、痛い視線を送られ続けている。
だが、説明しなくては。
「…俺、関わらないのやめたんだ。だから…」
口を開いた途端。
目の前には、降り上がった椅子の足があった。
え…。
「…おまえ!」
何もわからず、とりあえず落ちるように急に降ってきた椅子の足を、反射で両手で掴む。
しかし、そのままグッと強い力で押されてしまい、後ろに少しよろめいて、足元にあった机が一つガシャン!と倒れてしまった。
突然の桁たましい物音に、教室にいる誰もが注目する。
女子の「きゃっ!」という叫び声も聞こえた。
な、何だよ理人!
急に椅子を振り回しやがって!
「…何やってんだおまえは!」