王子様とブーランジェール
バカはおまえだ!
『…表に、出ろ!』
…昔のドラマの決闘シーンか。
表に出ろ。
いつの時代の決めゼリフだ。
…しかし、今の俺の立場からして、そんなことは言い出せない。
言おうものなら、殺されるレベルかもしれない。
「わ…わかった。わかった!出る。出る!」
「おう、わかってんのか。なら早くしろ。急げ。敏速に!」
椅子を掴んだ手を、一度離す。
だが、隙を突かれたかのように、グッと椅子を再度押し付けられ、背中を押されるカタチとなってしまった。
「…竜堂!和田!何やってんだ!」
今の物音と騒ぎで、仙道先生が教室に戻ってきた。
あわわ。やばっ。
理人の持った椅子で背中を押されているこの状態をも見て、先生は更に驚きの表情を見せる。
「お、おまえら!ケンカ?」
仙道先生の慌てた問いかけに、この男はしれっとして答える。
「そうでーす。先生、ちょっくらケンカしてくるね…早く出ろ!このゲロしゃぶヤロー!」
「わ、わかったわかった」
「…こ、こら!『ケンカしてくるね』って言われて『はい、いってらっしゃい!』って言えるワケないでしょうが!…あ、こら!和田!竜堂!」
だが、先生の話の途中で、背中の椅子をグッと押される。
自然に前に進まざるを得ない状況となった。
あっという間に廊下に出される。
「…背中!やめい!…どこ行くんだ!」
「さて!どこに行く!」
「…はぁ?表に出ろっつったのは、そっちだろが!」
「人目のつかないところに俺を連れていけ。このゲロしゃぶヤロー」
「は?!俺が案内すんの?」
「いーーから、早くしろ。このゲロしゃぶヤロー」
ったく。無計画か。
しゃあねえ…。
「…ま、待て!和田!…竜堂!」
「先生、先生。あの二人は大丈夫っすよ。放っておきましょ」
「は?松嶋、何で?」
「だって、あの二人は付き合い半端なく長いんすよ?兄弟みたいなもん。大丈夫でしょ」
…こんな話をされているとも知らず。
背中に椅子を押し付けられたまま、廊下を歩かされる。
すでに予鈴が鳴り終わっており、廊下にギャラリーがいないのが、せめてもの救いだった。
もたもたしていると、またしても隙を突かれたかのように背中に椅子をグッと押し付けられる。
「やめい!…椅子!何で持ってきてんだよ!」
「ハンデあってもいいだろ。夏輝には素手では勝てないし」
「…物騒だから、降ろせ!」