王子様とブーランジェール



「な、奈緒美さん!狭山さん!」


高瀬の体がビクッと動いたので、手をパッと解放してやる。

解放された高瀬は、直ぐ様立ち上がって気持ち狭山たちに頭を下げている。

狭山と奈緒美、そんなに偉いの?

まあ…奈緒美、もとい、伊藤奈緒美は、空手の有段者らしい。

空手部所属で、試合成績も部内ではダントツなんだと。

潤さんと同じく、格闘系ギャルだった。

主将の高瀬がペコペコするぐらいの相手…奈緒美、どれだけ強いんだ?


「高瀬、おまえひょっとしてまた絡みやがった?」

「い、いえそれは…」

「試合が思うようにいかないからってすぐ八つ当たりすんなよ?まだ大会あるんだから」

「す、すみません!」

何だこりゃ。

高瀬、まるで奈緒美の舎弟みたいな感じじゃないか。

どんな関係なんだ。


「…おい、殿様。久しぶりだなぁ?あぁ?」

素知らぬフリして向こうを向いていたが、もちろん遅かった。

狭山が下から俺の顔を覗き込んでいる。

めんどくさいの来たぞ。

「一暴れして目立ってくれんなよな?バカめ!」

そう言って、狭山は向こうを指さす。

そこには、俺が蹴り飛ばしたゴミ箱が転がっていた。

周りの散らばったゴミは、理人と陣太でせっせと回収している。

「…おぉい!夏輝!ゴミ箱ヒビ入った!やべえぞ!」

陣太が縦にヒビの入ったゴミ箱を指さしている。

やばっ…!壊してしまった!

「ったく、おまえは手加減出来ぬのか!先生に自ら申告してこいバカめ!…まあよい」

狭山は俺に右手を見せた。

「指、治ったぞ?っつーか、とっくに治ってたけどなぁ?あぁ?」

それ、三日前に廊下で出くわした時にも、同じこと言ってたぞ。

で、次のセリフも同じに違いない。

「…いつでもリベンジしてやるぞ!いつでも相手にもなってやる!バカめ!」

やっぱり…。

どうやら、狭山は先日の件を根に持っているらしい。

俺は早く忘れたいんだけど…。

あんなのもう無理。

女子相手にケンカとか、あり得ない。

ポリシーに反する。許されないわ。


「あぁ?竜堂、さっきから何黙ってんだコラァ!」

狭山がいちいち顔を覗き込んでくる。

ヤンキーマジめんどくさ。

「…やんねー」

「あぁ?」

「おまえとはもうケンカしねえ!」

「んだと?!怖じけついたのかバカめ!」

「んなワケねえだろ!おまえが女だから!女相手にはケンカしねえって言ってんの!」


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