王子様とブーランジェール
「見て。見て見てー」
なぜか嬉しそうにしている桃李は、その危険なブツをこっちにかざすように見せる。
そして、スイッチをグッと押していた。
おい…!
「桃李、やめっ…!」
声での制止は今一歩遅かった。
ヤツの持っている黒い物体の先から、パチパチパチッ!と耳障りな音と光が、勢いよく弾けている。
スイッチを押した張本人も「わっ」とビックリしていた。
うぉっ!…うおぉぉーっ!
「…押すな!…スイッチ押すなぁーっ!桃李コラぁーっ!!」
渾身の怒鳴り声が出る。
ザワッとした…!
まるで、俺の体にも電流が走ったみたいに。
ザワッとしたぞ…!
「これ、すごいでしょ!」
そう言いながら、スタンガンのスイッチを押し続けている桃李。
ババババ…と、スタンガンは放電し続けており、電気がパチパチいってるその物体の先を、俺達の方に向けて、すごいアピールをしている。
俺が感じた恐怖とは裏腹に、桃李はちょっぴりドヤ顔だ。
しかし、そのドヤ顔で放電したまま…!
「すごくない!…やめ!…やめろ!電源切れ!」
「え?何で?」
何で?…何でって?
無意識に威嚇放電しやがって!
本当に、何もわかってないのか!
危ない。
危ないぞ?自覚がなく、危険性も何もわかってないこいつがこれを持つのは。
そのうち、自分で感電するぞ…!
「…いいから、いいから!今すぐ電源を切れ!で、それをこっちに渡せ!」
手を伸ばして「よこせ!」と合図をする。
だが。
「えー。…だ、だめ!」
首を横に振っている。
な、何だと?!
なぜ渡さない!
「それが何をするもんだかわかってんのか?!…いいから、早くそれを渡せ!…その前に電源切れ!」
「あ、相手を倒す道具だよ?」
「…相手を倒す?!…ただ倒れるんじゃないんだぞ?!…何もわかってないだろが!」
「わ、わかってるよ?急に倒れるんだって!」
「…倒れ方の問題じゃねえ!」
「で、でも。これ、渡さないよ。これ、私の。私のだから」
「…おまえのモノになったかもしれんが、おまえがそれを持ってんのは非常に危険だって言ってんだよ!」
「な、何で。危険じゃないよ?」
「…感電するぞ!…死ぬぞコラァ!」
「こ、このぐらいじゃ死なないって、さ、狭山さん、言ってた」
押し問答、いたちごっこ。
話し合いは、拉致があかなくなっていた。