王子様とブーランジェール



「…え」


急に狭山の勢いが殺された。

意気がった表情から、ふと気が抜けたような隙だらけの表情になっている。

な、何だ…?

何か恐ろしいものでも見たのか。



「…え、いやいや。ちょっと待って…女とか…」



そして、みるみるうちに、狭山の顔が赤くなっていく。

顔に手を添えたぐらいにしといて。



な、何だ何だこの仕草。

いかにも「照れてます!」って感じ。

…ん?照れてるのか?

なぜ?!




すると、俺の後ろにいた奈緒美が大爆笑していた。



「…ぶはははっ!うわっ!照れてる!エリ、照れてるわー!」

「は?」

「エリ、カレシ以外に女扱いされたことないから、女言われて照れてるー!」

…はぁ?そうなの?

俺が『女相手にケンカしねえ』とか『おまえが女だから!』とか言ったから?

照れてんの?



これは…。

…いとも簡単すぎるだろ。

結構、可愛いとこあるな。

あんな鬼のようなケンカ吹っ掛けてくるくせに…。



そこで、奈緒美が狭山にヤジを飛ばす。

「おーい!何、竜堂にときめいちゃってんだおまえわ!カレシにチクるってーの!」

「…あぁ?!なんだと!奈緒美コラァ!」

今の奈緒美の一言で、鬼の狭山が復活した。

ヤジを飛ばした友人に、いつものヤンキー口調で言い返している。

「女だから!って言われて顔赤くなっちゃってるよー?」

「…んだと?!」

そして、狭山はなぜか俺をぎっちりと睨み付ける。

こっちにつかつかとやってきて、俺の左足の大腿の裏に蹴りを一発入れた。

「…痛っ!」

不意討ちの不意討ちと言えるぐらいの瞬時のスピードで入れた蹴りだったものだから、モロにくらってしまった。

一気に重くビリッとした痛みが走る。

「…この!狭山ぁっ!」

「女相手にケンカしねえとか、おまえは女だからとかはこの狭山エリ様には通用せんぞ!覚えとけ!あと、センパイを呼び捨てにするな!バカめ!」

この蹴り、女の蹴りじゃねえ…。

すげえ重い…。

センパイ…あ、そうでしたね。



そう言って、狭山は早歩きでこの場を立ち去っていく。

競歩みたい。早っ。

奈緒美はその後を着いていきながらも、後ろを振り返る。

「…あ、高瀬!おまえも来い!菜月が太陽の唐揚げ弁当買ってきたから!少し分けてやる!」

「あ、ありがとうございます!奈緒美さん!」

昼飯問題、解決したじゃねえか。

よかったな。ゴリラセンパイ。


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