王子様とブーランジェール
ごめん。本当に…ごめん。
「さる…あ、夏輝、あのねっ」
…また、間違えそうになったな。
さるぼぼちゃん!って言いそうになったな?
なぜ、俺と間違える?
更に複雑にさせないでくれ。
ツッコミまくりたいのが本音だが、涙を流している桃李を前に黙るしかない。
「…夏輝、ごめんねっ…」
桃李が、またいつもの謝罪をする。
また…。
しかし、今回に関しては、桃李が謝ることは何もない。
泣きながらだから、余計に胸が痛い。
「…何で謝るんだよ」
「だ、だって、いつも迷惑かけてばかり…」
「今回のことは、おまえが謝ることは何もない」
しかし、はっきり否定したにも関わらず、桃李は首を横に振る。
「私がイジメられなかったら、夏輝が『自分のせいだ』って傷付いて、教室からいなくなるなんてことはなかったもん…私のせいだよっ…」
…ホント、つくづく後悔させられる。
おまえを、そういう風に思わせてしまったことを。
「夏輝はうんざりしてるかもしれないけどっ…や、やっぱり私、夏輝に嫌な思いさせたくなかった…」
「だから…そんなんじゃねえって!」
「…だって、私にとっては、夏輝が一番大切なんだもん」
(………)
次に発する言葉を、飲み込んでしまった。
思わず、耳を疑ってしまうところだが。
理人の言っていたことは、嘘ではない。
と、リアリティーが更に増してきた。
嘘。…ホントなのか?
顔を上げていた桃李だが、じっとこっちを見たままでいる。
こっちから目を逸らさず、その様子は決して挙動不審ではない。
息を長く吸って、短く吐いていた。
「…私」
その様子が、いつになく落ち着いていて。
何故か、胸が高鳴って。
「…夏輝のこと、だいすきです…」
(え…)
世界が、ふっと停まった。
(あ…)
同時に、一瞬で頭が真っ白になる。
「あ…」
夏輝のこと、大好きです。
…あぁっ!
何も考えられず、言葉も出ず。
体も動かず、固まってしまった。
まさか。
…まさか、こんな日が来るとは思わなかった。
桃李が…桃李が俺のことを。
だいすきです、って…。
嬉しいのか、恥ずかしいのか、照れるのか…わからない。
今、どんな顔してるのか。
そんな、顔も伏せられないぐらい、脳内真っ白になってしまった。