王子様とブーランジェール




『桃李!…今そっち行くから、そこで待ってろ!』




いやいや。

待ちません。



やらかしてしまったことに気付くと、急に恥ずかしくなっちゃって。

穴があったら入りたくなってしまったのでした。



でも、こんな屋上に穴なんてタイムリーにあるワケはなく。

私…神田桃李は、校舎内へと戻る道、階段室へとそそくさ足を運ぶ。

…夏輝の制止する声を無視して。



ステイだとか。ウェイトだとか。

ごめん。構ってられない。

夏輝の言うことは何でも聞いてきたけど、それだけは無理。



早く、穴に入れてください。

でも、穴はない。



だが、気分が昂ってしまい、呼吸が乱れる。

息が荒くなって、過呼吸みたいになり、頭がクラクラしてきた。

苦しい…。

足取りもよろよろとしてきて、階段を降りている最中に座り込んでしまった。

もう、歩けない…。




階段中腹で、力尽きる。

廊下に降り立つことは、出来ませんでした。



(はぁ…)



階段に座り込んだまま、その端へと移動し、壁に体を預けてもたれこむ。

座っているうちに、徐々に呼吸も落ち着いて楽になってきた。



落ち着いたところで、先程のことを思い返してみる。




(言っちゃった…)



とうとう、言っちゃった。

長年、言えなかったこと。



好きです。って。



思い返すと、恥ずかしくなる。

意味もなくキョロキョロとしてしまい、挙動不審全開。

…なぜか『大』をつけてしまった。

何でだろ。




今、言うはずじゃなかったのに。

どうしても、どうしても引き留めたくて。

流れでつい、言ってしまった。

…私が『好き』と言うことで、何の引き留めにもなってないような気はするけど。

でもでも、夏輝のあの驚いた顔、笑っちゃうぐらい、ポカーンとしていた。

口、開けたままだった。

虫入っちゃうよ。

まさかまさか、私に『好き』って言われるなんて、想像もしてなかったろうに。




(………)




でも、何故だろうか。

この『告白』は、目標にしてきたことなのに。

何の達成感もない。




恥ずかしくて、逃げたくて。

白々しく逃げるようなカタチとなってしまった。

『待て』と言われて、何を言われるのか、恐かったのかもしれない。



手に持ったままの、狭山さんからもらった相手を倒す機械を、ふと見る。

…これをよこせ!って言ってたね。

だから待てって言ったのかな。



慌ててカバンにしまう。



渡さない。渡さないよ。

これは『御守り』だから。



< 754 / 948 >

この作品をシェア

pagetop