王子様とブーランジェール
壁に寄りかかったまま、もう少し前のことを思い返す。
あれは、昼休みの出来事だった。
『…どういうことなのですか!それは!』
りみちゃん達と教室でお弁当を食べていると、突然、女子の甲高い大声が響き渡った。
そのあまりの勢いに体がビクッとする。
あー。ビックリした。
廊下の方からだ。
顔をそっちの方に向けてみると、そこにはその声の主となぜか理人が話をしている様子だった。
理人が女の人と話しているのは珍しいワケじゃないけど、気になってしまったのは…その話をしている相手の女子だった。
(あの人…)
巻き髪のキレイな女子生徒。
品があって、そこらへんの子とはちょっと違う。
いつも夏輝のところに来る女の子だ。
私は、ちょっとお話ししたことがある。
おがさわらさんだ。
おがさわらさんの後ろには、同じように可愛い美人の女子生徒が数人。男子のように大きい女の子もいるけど。
その子達対理人といったお話し合いの場のようだ。
『こんなことになって…許されませんわ!』
『まあまあそこは、あんたらが怒っても仕方ないでしょ』
怒っている女子を理人が宥める。
そんな光景は珍しい。
ふーん。
…と、そこまでの興味しか出ず、再びりみちゃんたちとの会話に戻ろうした。
しかし、それ以上の興味を惹き付ける人物がそこに現れる。
『おう、麗華に…和田?珍しい組み合わせだな?何してんだ?』
アニメのヒロインみたいな可愛い声をしてるのに、偉そうな喋り方。
これは、私の尊敬してる大好きなセンパイの声だった。
『さ、さ、狭山さんっ!ろ、ろ、廊下にいる…』
思わず立ち上がってしまった。
『え?ホント?桃李、よくわかったね…』
『狭山さん、何してんのかな』
一緒にお弁当を食べていた美咲ちゃんと真奈ちゃんも、気付いたようだ。
お人形さんみたいに可愛らしくて、体も私より小さいのに。
ものすごく強くて、ブレない狭山さん。
カッコいい。
私もああいう風になりたい。
引き寄せられるように、みんなから離れて廊下に向かう。
先週、狭山さんに御守りを貰った。そのお礼をしなくちゃ。
ただ、それだけだった。
『狭山さ…』
教室から廊下に顔を出す。
だけど、和気あいあいという雰囲気ではないことに気付き、思わず動きを止めてしまった。