王子様とブーランジェール
最近の夏輝は、お昼休みになると教室から姿を消していた。
それだけじゃなく、珍しく授業をサボったりもしている。
帰ったのかな?と思いきや、いつの間にか教室に戻ってきてたり。
フッといなくなったり、フッと姿を現して何もなかったかのようにそこにいる。
まるで、忍者のように。
…やだ。ホントに忍者だったら、どうしよう。
カッコいい。惚れ直しちゃう。
と、思う反面。
何でだろ。とも思っていた。
その度に、あの件の後に『もう俺に関わるな』と言われたことが、頭の中を過る。
まさか…と、思いながらも、不安が重くのしかかってきて苦しくて、あまり考えないようにしていた。
しかし、今のおがさわらさんの話を耳にして、確信する。
これは決定打だ。
夏輝は、傷付いてしまった。
私が夏輝のファンたちにイジメられたせいで。
自分のせいだと、自分を責めてる。
一番、最悪な結果だった。
(そんな…)
目を伏せていたのに、目の前にドーン!と叩きつけられた現実に、茫然となる。
傷付いてしまった夏輝が姿を消す。
数年前のあの事件と、同じだった。
あの時も、今回も…私が原因だ。
茫然とした私には構わず、理人たちの話は続いている。
『まあ、それは…夏輝は何かあるとすぐ引きこもるクセがあるから。そこは大丈夫。よからぬ方向に行かないように見張りつけてるし』
『私達はやることはやった。だから、後は見守ってやるしかないんじゃないのか』
理人と狭山さんが、おがさわらさんの怒りを治めようと淡々と宥めてはいるけど、彼女の怒りの表情は崩れず。
むしろ、眉間にシワを寄せてピキッときてるようだった。
『…やることはやった?…エリお姐様、まだやってないこと、ありますわよ?』
『はぁ?やってないこと?』
『…嵐美央のあのお仲間たちですわ?…嵐は多大なるダメージを受けたかもしれませんが…あのお仲間たちは反省の色も見せず、平然と学校に来てるという話じゃありませんか!』
『あ…そう、なのか』
『あの帰りに男とカラオケ行ってたですって!…自分たちがイジメの実行犯であることを自覚していないという証拠ですわよ?!』
『な、何が言いたいというのだ。おまえは…』
狭山さんが勢いに押されかけている。
それほど、彼女はお怒りなのだろう。