王子様とブーランジェール
『次は、あの何もなかったかのように平然とスクールライフを送っている、あの四人を粛正致しますわ?』
しゅくせい…って何。
難しい言葉はイマイチわからない。
その単語を耳にした二人の表情が変わる。
驚きで苦い顔になっている。
『いや、だから…さっきも言ったけど、そんなことしても夏輝は喜ばないよ?かえって良くないって言ってるだろ』
『粛清…おまえは、お隣の将軍様か!』
『喜ぶ喜ばないの問題ではありませんわ?…私の気が済まないのでございます!』
そう叫ぶだけ叫び散らして、おがさわらさんは後ろにいるお友達に『さあ、行きますわよ!』と合図をする。
お友達も『よっしゃ!』なんて、何かにヤル気満々だ。
『では、ごきげんよう。和田様。エリお姐様』
『こら!…麗華!いらぬことをするではない!』
『…お姐様こそ!しゅくせいの『せい』の漢字、間違ってますわよ!』
『はぁ?!…あ、おい!』
そう言って、振り切るようにその場を立ち去るおがさわらさんとお友達。
おがさわらさんは歩きながら『定晴、今すぐリムジンで迎えに来なさい!』と電話をしていた。
彼女たちに振りきられ、二人はその場に残された。
『ったく、あやつらは…』
『粛清ではなく、粛正ですか…様子見ますか』
『手遅れになっても知らんぞ』
二人でぶつぶつと話しているが、動作の流れで二人がこっちに振り返る。
少し離れていたところにこっそり立っていた私と目が合った。
私と目が合った途端、二人はギョッとした顔をする。
『神田…』
『と、桃李?!…今の話、聞いていたのか?』
何でこの二人は、私がここにいることにビックリしてるんだろう。
そのリアクションにムッときた。
私がその話を聞いてちゃいけないの?
ムッときたその勢いで、その真意を問いただしてしまう。
『…夏輝が教室にいないの、あの事が関係してるの?』
駆け引きという技を持ち合わせていない私は、ストレートにズバリと聞いてしまう。
真っ先に理人が首を横に振っていた。
『桃李は悪くない。全部夏輝が悪いから。夏輝がだらしないからこういうことになっている』
『………』
はっきり言い返されて、返す言葉に詰まってしまった。
でも、その返答には到底納得出来ず、首を振り返す。
理人の言うとおり、夏輝が全部悪いのだとしても。
現に、夏輝は姿を見せずに、どこかに引きこもっている。
それは、あの事件がきっかけで。
思うところがあって、傷付いて苦しんでいることは確かだ。