王子様とブーランジェール
これは…緊急事態だ!
『私のせいだ…』
『…桃李!』
何とかしないと…!
そう思ってしまうと、いても立ってもいられない。
直ぐ様教室に戻り、机の中にある筆箱やノートをカバンに詰め込み、帰り支度を始める。
がさがさと物音をたてていると、美咲ちゃんと真奈ちゃんがこっちにやってきた。
『桃李、どうしたの?』
『か、帰るの?!』
『うん。緊急事態なの!』
『は、はぁっ?!』
これは、緊急事態だ。
あの時と同じことが、また起こってしまった。
私のせいで、こんなことになってしまった…!
…でも。
今の私は、あの時とは違う。
泣き寝入りをして、人任せになんかしない。
自分で何とかするんだ…!
カバンを背負って教室を飛び出そうとしたが、一歩手前で、目の前に理人が現れた。
『どこに行くんだ!落ち着け!』
いつもは落ち着いている理人だけど、今はちょっと慌ててる。
何で?理由はわからないけど、またしてもムッとさせられる。
『落ち着かない!…いや、落ち着いてるーっ!』
『は?…どっち!…あっ!』
私の意味不明発言に、理人が首を傾げているその隙に、脇をすり抜けて教室を出る。
廊下に出て、猛ダッシュで逃げた。
『…桃李!』
猛ダッシュの最中、予鈴が響いていた。
━━私はもう、あの時とは違う。
自分のことは、自分が何とかする。
『あの時』のこととは。
もう、ちょうど6年になる。
6年前、小学五年生の時に起きた事件。
…担任の先生が、女子生徒に対してセクハラをするという事件だった。
私は、夏休み中に、学校にしばらく来ていない愛里ちゃんのお見舞いに行った際に、愛里ちゃんの口から初めてその事を聞かされる。
『桃李、気を付けて。私はもう学校には行けない。クラスのみんな、頭おかしいよ。先生の言いなりになって平気でいられるなんて…』
愛里ちゃんが学校に行けなくなった理由は、前村先生のせいだということも、そこで知った。
半信半疑ながらも、先生を警戒していた。
だって先生、大声出すから恐いし。
そしたら、とうとう先生の手にかかる日が来てしまった。
愛里ちゃんから聞いていたおぞましい話を思い出すに加えて、先生のブタのような顔が恐くて、必死に暴れて拒否をする。
しかし、私は必死に抵抗しているそこへ、なぜか、夏輝が乗り込んできたのだった。