王子様とブーランジェール
「あ、あ、あの…」
もう授業始まる5分前。
理人たちと教室に戻ろうとしていた時。
後ろから桃李が着いてきた。
しどろもどろとしながら、俺達に話しかけてくる。
「…何」
「あ、あ、あの、その…な、な、夏輝…」
どうやら俺に言いたいことがあるらしい。
何をどもりまくってるんだ。
「何だよ」
立ち止まって、話を聞く。
…って、このどもられながら話されるの、実は結構傷つく。
俺、幼なじみで付き合い長いはずなのに。
なぜかビビられてる感、満載。
「あ、あの…ごめんなさいっ!…じゃなくて」
「は?」
「あ、あ、ありがとっ…助けてくれて、ありがとうございました!」
助けてくれて、ありがとうございました!
って、通りすがりの見知らぬ人に対するような物の言い方?
相手は幼なじみの俺なのに、その面識のないような人に対する言い方傷つく…。
…ではなくて。
ありがとっ…て言ったな。
「あ、あぁ…っていうか、周りをきちんと見ろよ?サンドイッチがあんなに潰れるってどんだけ踏み潰したんだ?気をつけろよ!」
「あ…ご、ごめんなさいっ!」
…あ、ちょっとこれじゃダメだ。
これじゃいつもと同じだ。
先日のパン撮影の件から。
俺、桃李に対する態度をちょっと改めなきゃと思い始めた。
「…大丈夫…だったか?」
小言はなるべくやめよう。と思って。
こんなセリフを吐いてみるが。
もちろん恥ずかしすぎて、直視はできず。
横目でチラッと様子を伺う。
「…う、うん」
桃李は何回も首を縦にふる。
それ以上は、恥ずかしすぎて何も言えず。
「あ、そう…」と、そのまま再び歩き出す。
素っ気ない態度。
と、思われるかもしれませんが。
『ありがとっ』を、頂いたので、今、顔がおかしいことになっていると思う。
ヤバい…。
「桃李、大丈夫だったか?」
俺の後ろでは、理人が桃李に声をかけている。
「あ、うん。ごめんね」
「人混みに押し出されてぶつかったんだって?しかし、あの先輩もひどいな」
「…でも、私も悪いよ」
「だけど、暴力は絶対によくないことだから。桃李、もしまたこういうことがあったら、逃げるんだぞ?逃げて、俺のところにでも来いよ?助けてやるから」
「うん…ありがと理人」
理人のヤツ、ぬけぬけと…!
逃げて俺のところでも来いよ?
助けてやるから?
何、歯の浮くようなことをぬかす…!
…あぁ、でも、それがお手本なのかもしれない。
桃李、理人相手にはそんなにどもらないんだよな。
それもまた傷つく…。
それに、そんなセリフ、言えない…。
まだまだだな、俺も。
スタートラインに立った今。
少しずつ、何かを変えていかなきゃいけないと思ってるんだけど。
まだまだ道は険しい中での、純情ラブストーリーは、続行中。