王子様とブーランジェール
『先生のしたことは、セクハラですよ!セクハラ!セクハラと暴力だ!犯罪だ!』
誰もが口に出来なかったことを、堂々と本人を目の前にして言い放つ。
しかし、それが先生の怒りを煽り、宙に浮かせられ壁に叩きつけられ…首を絞められる。
殺気立った先生の表情と、夏輝の苦しんでもがいている様子から、本当に夏輝は殺されてしまうんじゃないかと思い、私は必死で先生を止めた。
泣き叫んで狂ったんじゃないかと思うぐらい。
最悪の結果は免れたものの、私の代わりに暴力を受けた夏輝は、何も言わずに姿を消してしまう。
追いかけて校内中探したが、夏輝の姿はどこにも見当たらない。
帰りを待っていてくれた秋緒には、さっきの出来事は何も言えず、諦めて帰るしかなかった。
…でも、諦めないで探せば良かった。
まさか、あんなことになっていただなんて…。
あの事件から、3日が経つ。
…実は、翌日から夏輝は学校に来ていない。
双子の姉である秋緒は、最初は『ひどい下痢でもしたんじゃないんですか?』と言っていたが。
さすがに3日目となると『…何か、頭にくる事でもあったのでしょうか…』と、言葉を変えていた。
しかし、私はわかっていた。
夏輝が休んでいる原因は、絶対あの事だ。
どうしよう。
どうしよう。
私のせいだ…。
不安が大きくのしかかってくる。
だけど、あんなこと、誰にも言えない。
この、先生を神のように崇拝しているクラスで、先生を否定しようものなら、何を言われるかわからない。
不安はますます大きくなっていく。
そして、その不安を更に増大させる、決定的なものを見てしまう。
『…えっ、何?』
『これ…ヤバくない?』
クラスの女の子たちが数人、教室の隅に集まってこそこそしている。
派手な服を着ていて、垢抜けていて可愛い…俗に言うキラキラグループの女の子たちだ。
天パ眼鏡の地味子な私とは違う、リア充な子たち。
何してんだろ。
ぐらいの感想しかなく、そのまま帰ろうとした。
その時。
そのキラキラグループの女の子の一人がこっちにやってきた。
『桃李…何か知ってる?夏輝のこと』
『えっ、何のこと…ですか?』
『…ちょっとこれ見て!』
女の子が持っていたのは、スマホだった。
先生に内緒で持ってきたの?
そして、再生された動画を見せられる。