王子様とブーランジェール
(え…)
な、何これ…。
まさか、こんなことになっているだなんて、思わなかった。
その動画は、校舎がバックに映っていて、学校内で撮られたものだ。
そこには、恐らく…あの日の続きであろう出来事が映し出されていた。
『先生、誠意って何ですか?』
そう問う夏輝に、激しく暴力を奮う大人。
それは、紛れもなくあの担任の前村先生だった。
腹を踏まれ、顔にビンタされ。
無抵抗状態の夏輝を蹴って蹴って蹴りまくる、前村先生。
目の前が真っ暗になった。
何で、どうして?
何でこんな…!
『これ、SNSに拡散されていて、お姉ちゃんが送ってきたの…』
女の子の一人が呟く。
『ねえ、桃李、何か聞いてない?秋緒と仲良いでしょ?秋緒、何か言ってなかった?』
『さ、さあ…何も…』
何も言えない私は、そう答えるしかなかった。
『前村先生が夏輝にこんな…嘘でしょ?』
『まさか、おふざけ?先生がこんなことするはずないじゃん…』
そう言いながらも、その子の表情は曇っている。
『夏輝、だから学校来ないの?何でこんな…!』
一人の女の子がしくしくと泣き出した。
その子は、密かに夏輝のことを想っている女の子だ。
『夏輝、先生に逆らったんじゃない?だから罰が当たったんだよ』
クールに言い放つ子もいる。
しかし、このボコボコの事態は罰が当たったとかいう次元の話ではない。
そう済ませていること事態、この子はもう先生に洗脳されている。
だが、みんな同じ考えじゃない。
『…穂香、何言ってんの?!これ、暴力でしょ?先生マズイんじゃ…』
『はぁ?!先生の言うとおりにしてればこんなことにはならないでしょ?』
『な、何それ…ちょっとおかしくない?!だからってこんな!』
『だって、先生がこんなことするはずないもの!先生は偉いんだよ!』
『夏輝、夏輝どうなっちゃうの?もう学校来ないの?』
『これ、どうなるの…私達、先生信じてたのに…』
『信じてた?はぁ?何先生疑ってんのよ!』
『で、でも、こんなひどいことする?先生ひどいよ!』
そのうち、みんな口喧嘩を始める。
何が何だか、もうカオス。
その場にいても立ってもいられなくなった私は、教室を飛び出し、ダッシュで帰宅した。
あの、夏輝が先生にボコボコにされている動画のシーンが頭から離れない。
恐くて、恐くて。
帰宅するなり、部屋へ直行し、布団に潜り込んだ。