王子様とブーランジェール
…と、いうのがあの二人と接触するまでの経緯で。
それから私は、自分の言いたかった、話したかったことを訴える。
神様。勇気をください。
そう思って臨んだもの、練習通りには行かず。
緊張してどもっちゃうし。
肝心なことは言ってないような気がするし。
ただ、自分の言いたいことだけを言っただけ。
練習、なんの意味もなかった。
そして、原稿には書いてない、予定のない余計なことを言った。
『…夏輝のこと、だいすきです…』
…あぁ、なぜそこで言っちゃったんだろ。
もっと、もっと下準備をしてから言うべきだったのに。
しかも、理人が聞いていた。
恥ずかしい。後でダメ出しされる。
そんな恥ずかしさもあり、逃げてしまって今に至る。
(言っちゃったぁ…)
まだまだ余韻を引きずっている。
降ろしたカバンをぎゅっと抱き締めると、へなへなと力が抜けていく。
夏輝、どう思ったかな。
あんなに驚いた顔してたし。
笑えるよね。雑魚な下僕が王子様に告白。
困っちゃうよね。
もう、恥ずかしい。
聞き流してくれればいいな…。
…だなんて、逃げてるよね。
私の悪いクセだ。
はぁ…。
しばらく、カバンに顔を埋める。
自分のダメ加減にガッカリしてしまった。
すると、パタパタと足音が聞こえてくる。
それに伴う人の気配を感じてビクッとしてしまった。
だ、誰か来た…!
まさか、夏輝…!
私の相手を倒す機械を狙って…!
「…ん?こんなとこで何してるの?」
…違った。
作業着を着ているおじさんだった。
用務員のおじさんかな。
「…あ、あ、あのっ、そのっ…」
おじさんの急な登場に、頭が着いていかず、しどろもどろになってしまう。
おじさんは、私を通りすぎて階段を上がり、屋上のドアを開けた。
チャリチャリと鍵の鳴る音がする。
「…よし、閉めよう。いやー。碧子隊解散したから屋上すぐ閉めれるようになったわー」と、呟きながら、ドアを閉めて鍵をガチャンとかけた。
屋上の鍵をかけに来たんだ。なんだ。
施錠の仕事を終えたおじさんは、私に話し掛けてくる。
「どうしたの?そんなとこに座って」
「…え、いや、あの…ぐ、具合わるくて、た、立てなくて」
あながち嘘でもない嘘をつくと、おじさんは顔を覗き込んできた。