王子様とブーランジェール



「ホントだ。顔色悪い。目も腫れてる。大丈夫?」

「…え、あ、あのっ…」

顔色はわからないけど、目は泣いたから腫れてるだけ…。

「帰れる?」

「あ、あ、あ…」

「保健室で少し休んでから帰った方がいいね。連れてってあげるよ」

「あ、はぁ…」



大丈夫です、の一言が言えず。

結局。

私は用務員さんに付き添われ、保健室へと連れて行かれることになった。

「歩ける?」

「は、はい…」

おじさんの後を歩き、一階へと降り立つ。

カバンを背負ったまま、しずしずと着いていった。



「おーい!みなみちゃん!」



保健室のドアを開けるなり、用務員さんはそう叫んでずかずかと中へ入っていく。

すると、そこには保健室の先生がすでに白衣を脱いでいて、帰り支度をしていた。

「あーら。岡部さん!どうしたのー?」

「みなみちゃん、具合悪い子いたわ。ちょっと休ませてやってくんないかい?」

そう言って、私を手招きして中へと入れる。

「あらあら可愛い女の子ー!」

「屋上で立てないでいたんだ」

「いいわよーいいわよー?…でもね、私これから糸田くんと外勤行かなきゃいけないのよー!」

「あ、そうなの?じゃあ…俺が見てるか。…よし!おじさん仕事終わったらまたここに来て声かけてやるから、それまで寝てな!」

用務員さんは、そう言って私の背中を押してベッドまで連れて行ってくれる。

随分と押しの強いおじさんだ。



「はぁ…あ、ありがとうございます…あっ」

「どうした?」



今、気付いた。

慌ててリュックを降ろし、中を探す。



「ない…」



手に持っていたはずの…りみちゃんから貰ったさるぼぼちゃんが、いつの間にか無くなってる。

あれ。あれ?



「何かなくしたの?」

「…あ、あ…ピンクのマスコット…屋上に忘れて…」

「あ、そうなの?じゃあおじさん探してきてやるから。少し休んだ方がいい。もう一回屋上行くから」

「あ、あ、ありがとうご、ございます…」

「あ、みなみちゃん、保健室は鍵かけとくから心配しないで」

「岡部さん、ありがとー!」

手を振りながら岡部さんはさっさと保健室から消えていく。

ホント、行動力ある人だな…。


「ささ。落とし物は岡部さんに任せて!調子悪いなら休んで帰りましょーね?確か…1年3組の神田さん?」

「は、は、はい…わ、私の名前…」

「知ってるわよー!1年のかわいこちゃんだもーん!男子もみんな可愛いって噂してるー!」

「はぁ…」






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