王子様とブーランジェール
…なんだけれども。
「いやっほーぅっ!桃李、昼休みどこ行ってたのよー!」
教室に戻るなり。
俺達…いや、桃李の前にテンション高めに現れ、こっちにやってきた。
俺達には構わず、ただ桃李だけに話しかけている。
…またか!この男!
松嶋!
「ば、ば売店行ってたの」
「売店?」
「松嶋が牛乳買ってこいって言ったんでしょ」
そう言って、手に持っていたビニール袋から牛乳を取り出し、渡している。
「お、そうだったな…そうだっけ?」
「え、そうでしょ?松嶋が『牛乳飲んだらドジが少なくなるから、やらかしてばっかりいるおまえは飲んだ方が良い。俺も一緒に飲んでやるから牛乳買ってこい。嘘だと思うだろ?嘘じゃねえって!』って言ってたしょ」
松嶋はしばらく考えこんでいる。
何かを思いだそうとしているらしい。
しかし。
「…ま、いいか。一緒に牛乳飲むか。そんなことより見せたいもんあるからこっち来いや」
桃李も首を傾げている。
だが。
「…ま、いいや。一緒に牛乳飲もう」
そう言って、俺達から離れ、松嶋の後ろに着いていく。
席が隣同士の二人。
ほぼ同時に席に着いて、牛乳をストローに刺して飲み始めた。
「…あ、そうだ。見せたいものなんだけど」
「何なに?」
松嶋はカバンから数枚のプリントを取り出す。
それを桃李が覗きこむカタチとなっていた。
顔も体も、距離が近い…!
な、何だよこの仲の良さ!
桃李は、転校してきた時から、ダメドジ挙動不審女だった。
引っ込み思案で、社交的ではない。
地味な見た目のせいか、目立つタイプでもなく、『その他大勢』みたいなキャラだ。
それゆえ、男子とはあまり話をしない。
むしろ、俺や理人がどちらかといえば仲が良い方なんじゃないかな。
…なのに。
先日のパン撮影の件あたりからかな。
この松嶋慎吾という、クラスメイトと一緒にいる姿をよく見かけるようになった。
なぜ、松嶋と?
松嶋は男子だぞ?
なぜ仲良しなのか、接点が見つからない。
この松嶋慎吾とかいう男は、見た目が派手。
制服はいつも着崩している。ブレザーの下にパーカー仕込んだり。
アクセサリー類が多い。首、耳、腕、ネックレスだの、ピアスだの、ブレスレットだの、必ず何かしら金属が付いていてじゃらじゃらだ。
そして、一番目を惹くのがヘアスタイル。
耳が隠れるくらいの黒髪は、毛先をワックスで固めてはねさせている。
そうそう、髪ピョンってやつ。
まるで、ロックバンドでギターを弾いてそうなビジュアルなのである。
だが、身長は170ない低さで、小柄な方。
しかし、顔が小さく、目が大きくて可愛い顔をしている。
桃李とは、縁遠いようなキャラだ。
真逆。対称的。
今、席替えをして、桃李と松嶋はよりによって隣同士になってしまったから、なお仲良くしているところが目につく。
ホントに、なぜ急に仲良くなったのかがわからない。
こんなに桃李のことを見てるのに、思い当たる点がないのだ。(俺、ストーカーみたい…)