王子様とブーランジェール




そうして、私の進級、新学期に合わせて札幌へとお引っ越し。

新しく住む地域は、この政令指定都市・札幌の中でも比較的自然の多い地域だという。

いわゆる、田舎。

…と、言われたもの。あの十勝の大平原で育った私にとっては、政令指定都市内の田舎も十分都会の街だった。

土で踏み固められた農道は、アスファルトになり。

空へとそびえ立つ木々は、電柱となり。

有名な美しい山があっても、張り巡らされた電線に遮られ、手の届かない向こうの世界にあるような気がする。

私が育った世界とは、全く別の世界。

歩きやすいアスファルトの上に、足裏を着けながらも、新世界に対する不安は消えず大きくなっていた。



新しく入った小学校も、バカみたいに大きかった。

一学年に三クラス、生徒数は学年100人を越える。

全校生徒9人の小さな田舎の小学校に通っていた私にとっては、そこは人間の吹き溜まりとしか思えない。

人、人、人だらけで、人に酔ってしまっていた。



それは、新しいクラスでも同じだった。

教室の中に生徒が40人弱いる。

そんな経験は初めて。

机の数、すごい…。

クラスにいる子たちも、テレビでしか見たことないオシャレな子ばかり。

『この動画みたー?』

『超ウケる超やばー!』

スマホを見ながら笑い合う女の子たち。

オシャレな服はもちろん、アクセサリーをつけたり、薄い化粧をしている子もいる。

そして、都会の子たちは大きい。

身長だけじゃなくて、体の発育そのものが。

中には色気がある子もいて、大人だ。

体の小さい私は、疑いもなく三年生と間違われる。

同じ歳なのに、すごい差。

加えて、天パ眼鏡の地味子でモブの私。

同じ人間なんだろうか。




未知の世界と、未知の生物。

私はただ、圧倒されるばかりで。

教室の隅で、俯いてブルブルと震えていた。



それは、男の子も例外じゃない。



『夏輝ー!体育館でバスケしよーぜ!』

『お、行くか行くか!』



男の子たちも、大きい。

体も、声も。

すでに大人みたいな声の低い子もいる。

大人の男性が苦手な私はますます萎縮する。



男子たちがいなくなったその教室で、オシャレな子たち、キラキラグループの女子たちがこそこそ話す。



『あぁ…夏輝、カッコいいな…』

『彼女いるのかなー』

『1組の佐々木未夢と付き合ってるみたいだよ?』

『えぇーっ!』



< 770 / 948 >

この作品をシェア

pagetop