王子様とブーランジェール
それから、お母さんの作った売り物のパンも数々提供して、我が店のイートインスペースは小学生のちょっとしたお茶会となっていた。
怖くて誰にも聞けなかった学校の話も、みんなにならすんなりと聞けて。
友達、出来た…。
帰りには、みんな売り物のパンを買っていってくれた。
竜堂家の二人は、いろいろモメていたけど…。
どっちがどれだけ金を払うのかだとか、食パンにするのか、クロワッサンだけにするのかとか。
お姉ちゃんたちの分を買うのか買わないのだとか。
里桜ちゃんに『全部買えばいいしょー』と言われると、すかさず秋緒が『私の金銭事情も知らないくせに黙りなさい』と言い捨てていた。
結局、食パンもクロワッサンも全部買っていたけど。
お母さんとお店の前でみんなを見送る。
すると、米派イケメンのゲロ…いや、名前教えてもらった。
夏輝が、私のところに来る。
『桃李』
『あ、は、はい』
『クロワッサン、マジうまかった。また焼いてくれな?』
そう言って、ニコッと笑う。
…その笑顔は、キラキラとしていた。
えっ。すご…可愛い。
笑顔、キラキラしてる。
なぜか知らないけど、意識とは逆にドキドキしてしまう。
イケメンのスマイル、殺傷能力あり。
『あ、う、うん!』
たどたどしく返答していると、夏輝の後ろで秋緒が『また焼いてくれなんて図々しい。お金払って買いなさい』と、またディスっていた。
秋緒、世の中に不満でもあるのだろうか。
『桃李、また明日』
また明日。
…明日も、ある。
この人たちの『明日』に、私はいる…のかな。
何気ない一言に、良き未来を感じてしまい。
嬉しかった。
『…お母さん』
『ん?』
みんなの帰る背中を見送りながら、隣にいる母に、私は心の内を明かした。
『私…ブーランジェールになる。お母さんみたいなブーランジェールになる!』
すると、母は『ははっ』と笑う。
『…そこは《母を越えるブーランジェールになる》だろ?娘』
『う…』
『母を越えていけ。明日から一層厳しくやるからな?』
そう決意を述べた翌日には。
母からお店のコックコートを渡される。
そうして、私は製パンの道を志す。
彼、竜堂夏輝は、そんな私の作ったパンを一番最初に『美味しい』と言ってくれた、初めてのお客さん。
特別な人、だった。