王子様とブーランジェール




それからというもの、彼、夏輝は私の日常生活の世界にしょっちゅう入り込んでくる。

教室でも、話す機会が増えた。



『桃李!ここのプリント、先生に持っていくように言われたんだろ?!…まだ、片付いてねえじゃねえか!』

『あ、あ、あ、ごめんなさい…』

『早くしろ!俺も手伝ってやるから!…本っ当におまえは鈍くせえ…』

『は、は、はい』


彼には、しょっちゅう小言を言われる。

たまには、怒鳴られる。

それは、恐らく、私がだらしなくて、彼がきちんとした人だから。

私の鈍くささにイライラするのだろう。



『片付いたか?量多いから、俺も一緒に持っていってやる』

『あ、ありがと…』


口が悪いけど、こう優しいところもある。



『おまえに任せとくと、廊下でプリントブチまけるかもしんねえしな』

『……』


私が悪いのはわかってるんだけど、ちょっと傷付く…。

でも、彼の言っていることは正しくて。

言うとおりにしていたら、ちゃんと解決する。

凄い、素晴らしい人。





…『夏輝』という名前は、上手いことを言ったもんだ。




夏の太陽のように、何よりも眩しく、輝いている。

彼は、そんな人。



学校の成績がとてもよく、テストではいつも100点を取っていて。

授業の発表も、きちんとハキハキ答えたり、流暢に自分の考えを述べる。

運動神経も抜群で、足も速いし、スポーツ万能。

私達の知らないことも知っていて、周りや先生まで驚かされることもしばしば。

博識で達観している。

英語も話せる。先日、道で外国人に道を尋ねられ、スラスラと英語で返していた。

祖母がフィリピン人ならしい。すると、夏輝はクォーターということになる。

加えて、その端正な顔立ち。

芸能人よりも、完成された美形の男子だ。

これぞ、完璧な人間というのだろうか。



性格も、口は悪いんだけど、面倒見もいいからか、みんなに好かれる。

自分の主張もはっきり述べるもんだから、そこをカッコいいとクラスの女子は騒ぐ。

分け隔てなく、みんなに優しい。誰もが避けてしまうような地味モブの私達にも、他の子とは変わらない態度で接してくれる。

リーダーシップを進んで取るキャラじゃないんだけど、困った時には、なぜかみんな夏輝を頼りにする。

だけど、それを嫌がらずにみんなの力になろうとしてくれる。



まるで、太陽の輝きを、みんなに分け与えるように。

そんな彼に、誰もが魅了される。


< 778 / 948 >

この作品をシェア

pagetop