王子様とブーランジェール
そんなワケで、心中穏やかではない。
ザワツキを感じていた。
松嶋の席は、俺と同じ列。
背が高いからという理由で、無理矢理一番後ろの俺より4つ前。
桃李の席は、右隣の列。
近いのか遠いのかこの微妙な距離。
二人の様子が嫌でも視界に入る。
チャイムが鳴り、そろそろ授業が始まる。
だが、前にいる桃李と松嶋は話を続けていた。
松嶋が持ってきたプリントは、桃李の手に渡っている。
そのプリントを見ながら、まだ話をしていた。
周りのざわつきで、会話がうまく聞こえない。
結局、先生が来ても話を続けており、「そこ、うるさいぞ?授業始めるから静かにしろ」と、二人揃って注意されていた。
ノリの軽い松嶋は、「先生、すんませんしたー!」と、わざとらしく大声で笑いながらふざけている。
すると、松嶋は桃李に「ほらほら」と、先生を指さす。
「早くおまえも謝罪せえ。先生に」
しばらく松嶋と先生を交互に見て、キョドっていた桃李だが。
「す、すんませんした」
ボソッと一言発した。
すると、松嶋は大爆笑し始めた。
「だぁーれが俺のマネせい言ったんじゃボケぃ!そこは女らしく『先生、すみませんー!これから気をつけまぁーす!』だろがい!おまえ、バカだなー!『すんませんした』だってよぉー?」
大爆笑しながら、桃李をいじってからかう。
「…もう!松嶋のバカ!」
それに対して、桃李が反撃した…え?
身を乗り出して、松嶋の腕をぺちっと叩いた。
むくれて、ムッとした顔をしている。
松嶋はそんな反撃気にもせず、笑いながら「バーカバーカ!」と、からかい続けている。
先生が授業を始めたことで、その場は治まった。
注意されるまで、ずっと話し続けているなんて。
何の話をしていたんだよ…!
しかも、桃李が男子に対して反撃?
あり得ない!
あまり男子とは話をしない、男子とは接触のない生活を送ってきた桃李だぞ?
からかわれて「バカ!」なんて、その上、男子を叩くだなんて!
あり得ない!
あり得ないこと続きだ。
それに…桃李があんなにムッとした顔をするなんて。
見たことなかった。
いつもニコニコしてるかオドオドしてるかのどちらかなのに…!
何だか…とてもイライラする。
思わず、ちっと舌打ちしてしまった。
すると、前の席にいた理人(今度は俺の前の席…)がパッと振り向く。
「え?何舌打ちしてんの?」
「…いや、別に」
「今『ちっ』って言ったよね?言ったよね?うわっ」
「…いちいち突っ込んでくんな!」
ったく。この舌打ちの理由、わかってんだろうがよ。
そこをあえて突っ込んでくるとわ、性格の悪いヤツだ。
イライラする。